DV加害者だった52歳夫を変えた強烈な「自覚」 耐えかねた41歳妻が被害者になり気づかせた

拡大
縮小

結婚から3年後の2018年秋。2人は東京から宮崎に引っ越した。大きな庭のあるマイホームが欲しくて、亜衣子さんの生まれ育った宮崎を選んだ。ところが、宮崎に来て1カ月後、亜衣子さんが突如いなくなった。どこに行ったんだといら立ちながら帰りを待っていると、数時間後に「離婚したい。子どもは私が育てる」という趣旨のメールが届いた。

亜衣子さんは、結婚当初に言われた「俺が上、お前は下」を楽観的に捉えていたという。

「やっぱり、夫を“好き”という気持ちがあるので、正直『亭主関白な人なんだな』くらいにしか思わなかったですね」

しかし、結婚直後から亜衣子さんは夫の顔色をうかがうようになった。頼まれごとを忘れたり、少しでも反抗的な態度を見せたりすると、夫に怒りのスイッチが入ってしまう。説教は5時間以上に及び、「死ね」「生きている価値がない」といった言葉の暴力を投げつけられたこともある。

「でも、自分がDVを受けている自覚はなかったんです。言われたことをできない自分が悪い、と。拓さんから言われるのと同じように、自分に対して『生きてる価値ないのかも』と思い始めたりして」

家出は計画的ではなかった。

怒られる頻度は最初、週に一度くらいだったのに、次第に揉め事は毎日のように起きるようになった。限界になった亜衣子さんは「ここを出なければ」という一心で実家に向かった。警察に電話し、いきさつを話すと、「それはDV」と言われ、初めて自分はDV被害者という意識を持った。

DVチェックにほとんど当てはまり、DV加害を自覚

妻に出ていかれ、宮崎の家で1人になった拓さんは、何度もメールで謝罪した。それに対し、亜衣子さんは「離婚する」と譲らない。そんな日が数週間続いた後、拓さんはネットで「DVチェック」という文字が目に入った。「相手が自分に従わないと、いらいらしたり怒ったりしますか」「いつもリードしなければと思っていますか」といった項目の1つでも該当すれば、DVの可能性があるという。その項目のほとんどが自分のケースに当てはまった。

次ページNPOのDV加害者向けプログラムを受講
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT