日韓関係改善に向けて米国が強力な布陣 駐韓米大使に大統領側近のリッパート氏を指名

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しかし、それは誤解だ。リッパート氏は大統領と個人的な関係が深く、国家安全保障会議(NSC)や国防総省の内情に精通している。今後の東アジアをめぐる米国の外交政策に影響力を与える存在であり続ける人物だ。

同氏はヘーゲル国防長官の首席補佐官として長官が携わるすべての問題に関わってきたが、とくに米韓関係については、朝鮮半島危機に際しての新しい米韓共同作戦の立案などに携わってきた。韓国駐在の米軍司令官のカーティス・M・スカッパロティ将軍とも緊密だ。また、大統領府と国防総省との連携にも重要な役割を担っている。ヘーゲル長官の右腕になる前には国防総省のアジア太平洋安全保障問題担当次官補を務めていたこともある。

さらに、オバマ氏の外交政策ブレーンとしてイラク問題にも関与している。2008年7月、当時、大統領候補だったオバマ氏はヘーゲル氏(当時は上院議員)とともにイラクを訪問したが、リッパート氏も同行した。その時、彼は米海軍特殊部隊(SEAL)の情報将校として1年間務め上げた直後だった。イラクには2007年と2008年の数カ月駐在している。

オバマ氏が大統領選に勝利した2008年にリッパート氏は政権交代期の外交政策チームの副部長を務めたあとNSCの首席補佐官となった。その1年後に米海軍特殊部隊に戻った。NSCの後任には親友のデニス・マクドノーが任命され、現在もそのまま首席補佐官を務めている。

期待される異例の役割

在外米大使が政府の外交政策に影響力を行使するのは異例だが、リッパート氏にはその異例な役割が期待されている。オバマ大統領は韓国の朴槿恵大統領と良好な関係にある。彼の親友を駐韓米大使に任命することによって両首脳関係をさらに強化し、同時に日本に対しては、慰安婦問題などの解決に努力するよう圧力をかけるシグナルにもなる。

米政府はこれまで日韓関係の緊張に神経をとがらせてきた。その緊張は北東アジア地域の安全保障に有害であり、北朝鮮に対抗するための米日韓3カ国の協力関係を損なうからだ。いずれにしろ、リッパート氏が北朝鮮問題への対応や日韓関係改善に向けたキーパーソンになることは間違いない。

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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