(第1回)驚くべき急回復を示すアメリカの先端産業

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 アメリカの先端金融も先端ITも、日本には存在しない経済活動である。アメリカ金融業の最近の利益増は、債券・株式の引き受けや、住宅モーゲッジのリファイナンスなどの投資銀行業務による。これらは直接金融の業務であり、間接金融が中心の日本ではなじみが薄い。

アメリカの情報産業に対応する産業は、そもそも日本には存在しない。アメリカの先端IT産業と日本の電機産業は、名称は似ていても、別の産業なのである。だから日本の状況を当てはめても、説明できない。これは新しい産業であり、20年前にはなかった。クラウドコンピューティング(ソフトの供給やデータの格納をインターネットで行う仕組み)に至っては、ここ数年間の進展だ。

投資銀行業務も先端的ITも、専門的な知識を要する業務であり、誰もができるルーチンワークではない。これらは優れて21世紀的な知識集約的産業だ。高い収益を実現できるのは、そのためである。

いま世界経済は、新しい段階に入りつつある。そして日本には存在しない経済活動が未来の経済を牽引する。条件が変化すれば、従来のビジネスモデルは有効性を失う。これまで一国の経済をリードしてきた産業が、いつまでもその機能を果たせるわけではない。条件の変化に適切に対応した企業や国が発展し、そうでない企業や産業や国が没落する。

先の週刊東洋経済での連載「変貌とげた世界経済 変われなかったニッポン」で述べたように、日本は90年代における世界経済の大転換に取り残された。今また、大きな転換が起ころうとしている。その中で転換の意味を理解できず、再び取り残される危険がある。需要の減少に対して量的拡大で解決しようとしたり、政府の支援を仰ごうとし続ければ、そうなる可能性は極めて高い。では、日本はいかに対応すべきか。この問題を、この連載において考えることとしたい。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。


(写真:今井康一)
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