決済システム大刷新、"眠らぬ銀行"への道程 リアルタイム決済は成長戦略に盛り込まれるか

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一方、英国より出遅れた米国は、中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がリアルタイム決済の導入を強力に推し進めている。

昨年6月、FRBの一翼を担うニューヨーク連邦準備銀行のカミング筆頭副総裁は、資金決済システムに関する講演で、即時決済の重要性を強調。銀行業界の関係者に向けて、次のように呼びかけた。

「英国のようなシステムを実現するためには、業界全体が広く協力する必要がある。資金決済がリアルタイムになれば、日常の生活やビジネスにおける取引に変化をもたらすだろう」

FRBは、今夏にもリアルタイム決済への対応に向けた最終報告書を公表する。米国も英国と同様、顧客のニーズの有無が調査されたわけではなく、金融イノベーションの観点から議論されている。

問われる銀行業界の本気度

今年3月に導入したシンガポールも同じだ。同国の当局者は、サービスを開始する直前に開催された国際会議の席上で、このように発言した。

「リアルタイム決済を開始しても、当面、その利用が大きく増えることはないかもしれない。しかし、世界のビジネスがリアルタイム化に向かっている中で、銀行振り込みだけが遅いというわけにはいかない」

ひるがえって、日本は今後どのような展開になるのか。

自民党の塩崎恭久政調会長代理は、「まだ関係者へのヒアリングの途中だが」と前置きをしながらも、「金曜日の15時30分を過ぎてから振り込んでも、翌週の月曜日にならないと受取人の預金口座におカネが入らないというのは、(銀行業界だけの問題ではなく)国民生活そのものの問題だ」と指摘する。そのうえで、「リアルタイム化は間違いなく実現しないといけない重要な成長戦略の一環だ」と話す。

5月の大型連休明けに、自民党では成長戦略の見直し作業が大詰めを迎える。6月には政府の成長戦略が打ち出される予定だ。その中に、銀行のリアルタイム決済の実現が盛り込まれることになるのか。それ次第で、銀行業界の意気込みも変わってくるに違いない。

(撮影:ロイター/アフロ =週刊東洋経済2014年5月3日・10日合併号〈4月28日発売号〉 核心リポート03)

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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