「コロナ第2波」日本に決定的に足りない対応策 従来の感染症法に頼っていては限界がある

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では、どうして世界でPCRの活用が進んでいるのだろう。擬陽性を我慢して、とにかくスクリーニングしているのだろうか。そうではない。実はPCRはほとんど擬陽性を生じない。コロナは環境中に存在しないし、適切にプライマーをセットすれば、ヒトの遺伝子と交叉反応することはないからだ。

さらに、国立感染症研究所の方法は、2種類の遺伝子配列を増幅させる「マルチプレックスreal-time PCR」という方法だから、誤って別の配列が増幅される確率は1%どころでなく、限りなく0に近い。だからこそ、世界は繰り返し検査をして、感染者の見落としを減らそうとするのだ。

実は、PCRの精度に関する見解の相違が、コロナウイルス対策に決定的な影響を与えている。PCRの擬陽性が問題となるなら、事前確率が高い、つまり大部分が感染していると予想される集団にしか使えないからだ。事前確率が50%、つまり、コロナ感染が限りなく疑わしいケースにPCR検査を実施した場合、詳細は省くが、擬陽性の確率は1.4%だ。一方、0.1%の感染者しかいない集団の場合には擬陽性率は93%になる。

無症候の人の感染確率は低い

一般的に無症候の人の感染確率は低い。7月16日、政府のコロナ感染症対策分科会は、無症状の人に対するPCR検査について、公費で行う行政検査の対象にしない方針で合意、政府に提言している。尾身会長は、7月17日日に配信されたウェブメディアのインタビュー「必要なのは、全ての無症状者への徹底的なPCR検査ではない。尾身会長『100%の安心は残念ながら、ない』」(BuzzFeedNews)に登場し、検査の拡大に反対している。

このことが日本の新型コロナウイルス対策を大きく歪めていると私は考えている。中国やアメリカでPCR検査数が多いのは、無症状の人が多く含まれているからだ。これはPCRの精度の評価が日本とは違うからだ。擬陽性がなければ、どんなに事前確率が低い集団にPCRをかけても、問題は生じない。ところが1%も擬陽性が起こるという立場に立てば、無症状者にスクリーニングすれば、大量に擬陽性を作り出して、社会を大混乱に陥れる。

実は、世界で議論される無症状者の中には、医療従事者や介護従事者はもちろん、保育士や教員、警察官などのエッセンシャルワーカーが含まれる。

医療従事者や介護従事者が感染すれば、患者や入居者にうつす。高齢で持病を抱える彼らは致死率が高い。第1波では永寿総合病院(東京都台東区)などの院内感染で大勢が亡くなった。院内にコロナウイルスを持ち込んだのは、医療従事者や出入りの業者だろう。彼らがPCR検査をしていれば亡くならずに済んだかもしれない。

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