河井夫妻「議員辞職」に安倍首相がやきもきの訳 1億5000万円の使途めぐる捜査進展はあるか

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これに対し、立憲民主などの野党側は8日、国対委員長会談で河井夫妻の議員辞職を求める方針で一致。「首相の任命責任は重大」として、与党側に安倍首相が出席しての予算委員会閉会中審査の早期開催を求めた。立憲民主の安住淳国対委員長は「(金銭を)もらった側は事実関係を認めている以上、渡した側の責任は免れない」と強調したが、自民党は「首相はコロナ対応に集中している」などと拒否する構えだ。

ただ、与党内でも、公明党の斉藤鉄夫幹事長が8日、「国民の政治不信を招いた責任は重大だ。裁判の結果を待つまでもなく議員辞職すべきだ」と明言した。自民党内でも「次の選挙を考えても、辞職しないとだめだ」(閣僚経験者)との声が相次ぐ。

「政権ぐるみの犯罪」に発展するか

安倍首相や自民党執行部の不安要因は、1億5000万円の使途にからむ党本部などへの本格捜査だ。「考えられない額の選挙資金投入」(自民選対幹部)だけに、「総裁と幹事長の承認がない限りありえない」(同)との声が支配的だ。特捜部が河井夫妻の起訴後も捜査を続行すれば、総裁である安倍首相や二階幹事長も含めた党最高幹部への直接捜査の可能性も残る。そうなれば政権ぐるみの犯罪にも発展しかねない。

ただ、司法関係者は「金に色はないので、党本部の投入した資金が買収に使われたことを立証するのは極めて困難」と指摘する。検察当局は買収を受けた地方議員らの立件を見送る方向だとされ、「事実上、夫妻の起訴で捜査は終結」(自民幹部)との声も広がる。

今回の捜査の最高指揮官の立場だった稲田伸夫検事総長は、今回の起訴を置き土産に7月下旬までに勇退し、林真琴東京高検検事長が後任の検事総長に就任するとみられていることも、そうした見方を後押しする。

こうした事情から、政界では河井夫妻が議員辞職するかどうかが、当面最大の関心事となる。安倍首相や二階幹事長は表向き「出処進退は議員個人の判断」と繰り返すが、党内では「水面下のルートで、夫妻それぞれに議員辞職を働きかけているはず」(閣僚経験者)という。

ここにきて安倍首相と麻生太郎副総理兼財務相の度重なる密談をはじめ、二階幹事長、岸田政調会長など政権中枢の個別会談が相次いでいる。党内では「当然、河井夫妻の議員辞職問題も話し合われているはず」(若手)との声が広がる。

安倍首相が「河井夫妻の個人的問題」と放置すれば、党内には「首相は逃げ回るだけ」との不満や不信が広がり、解散戦略への影響も含めて指導力低下を加速させかねない。国会閉幕後も低下した内閣支持率に回復傾向がみられず、求心力復活を狙って党内工作を進める安倍首相にとって、河井夫妻問題への対応が政局運営のカギとなることは間違いない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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