アメリカ人落胆「都市封鎖は無意味だったのか」 中途半端な経済再開で感染者増止まらず

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感染爆発の大惨事が迫り来るように見える中、フロリダ州とテキサス州では危機を封じ込めようと知事が大慌てでバーの封鎖に踏み切った。国民は奇妙な既視感に襲われ、当局の対応を苦々しい思いで眺めている。自分たちの犠牲が台無しにされた、という感覚が広がっているのだ。

「結局、元の木阿弥」。そう語るのはフロリダ州の美容師、ジュディ・レイさん(57)だ。レイさんはウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートの理髪店で働いていたが、3月にレイオフ(一時解雇)された。「みんな責任転嫁ばかり」。フロリダ州の政治家について、レイさんはこう話す。「指揮系統が本当に機能しているとは思えない」。

「私たちの状況なんか気にもしていない」

レイさんはディズニーの従業員として13年間働いてきたが、レイオフされてからの10週間、連邦からも州からも一切、失業手当を受けとれていない。3月から職業安定所に何百回と電話をかけてきた。なのに、6月下旬になっても手続きが保留になっていると告げられたときには、途方に暮れ、思わず泣き出してしまったという。彼女は今、貯金を切り崩して住宅ローンの支払いに充てている。

レイさんは州当局の対応について「私たちの状況なんか気にもしていない」と話す。「痛みを受けるのは私たちなのに。だって、そうでしょう?」。

アメリカ人の多くは当初、「9・11」の同時多発テロ後の数日間を思わせるような強い連帯感でパンデミックに立ち向かった。事業を休止し、自宅にこもり、マスクを作って、購入した商品も拭き取って消毒した。アメリカは政治的な分断が目立つが、世論調査ではロックダウンを是認する層は各方面に広がっていた。

ところが、矛盾したメッセージが何カ月にもわたって飛び交った結果、多くの人がやる気を失い、行動制限の効果を疑問視する声が強まった。

ロサンゼルスで古本屋「サイドショー・ブックス」を経営するトニー・ジェイコブスさんは、ロックダウンが始まった最初の数週間、マスクと手袋をつけたうえで自転車に乗って近所に本を配達していた。

「2〜3週間もロックダウンを続ければ、ロサンゼルスからウイルスを追い出すことができるだろうと思っていた」とジェイコブスさん。「それが市民としての義務だし、その義務を果たせば誰もが報われると感じていた」。

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