コロナ後の職場で増える「ざんねんな人」図鑑 困った人に同僚・上司・部下はどう接すべき?

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一貫した個性があれば、その仕事を安心して任せられるので、周囲から集団の一員として認められるのです。今日でも「相手を見て態度を変えてはいけない」と言われるのは、このためです。

しかし、私たちは皆、状況に応じて異なる自己が出るものです。例えば、友人同士で破天荒に振る舞っているところに、意中の異性が来たら、思慮深い自己を演じたりします。でも、その場にいた友人に2つの異なる振る舞いを見せてしまうと、どちらが本当の自分か、混乱させてしまいます。

社会心理学では、これを「多重観客問題」と呼んでいます。普通の人は、周囲を混乱させないように気を使って、大きく異なる振る舞いをしないように心がけます。

変心属には、この配慮が足りないのです。彼(女)らは「理解されにくい事態を気にしない」という点で、人目を気にするアピールしたがり屋とは反対の方向性です。

1つのパーソナリティを求めることには限界がある

変心属を見かけたら、「状況に応じて自分らしい対応をしているんだな」と、おおらかに受け止めたいものです。決して、本人に「一貫性のある自己表出」を求めてはいけません。

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むしろ、それを求めることこそが、過去の習わしへの固執なのです。変心属に過度な負荷をかけないようにしましょう。

人間は複雑な存在です。ときには豹変があってもいいのではないでしょうか。でも、職場での節度ある態度とは裏腹に、職場の裏事情をネット発信している場合は放っておけません。

その場合は、「一貫性のある自己表出」を求めるのではなく、「裏事情の情報発信が社員としての服務規定に違反する」などと警告するのが効果的です。

1人の人間の中には、実は多様な心の働きが潜んでおり、外側から見える表面はわずかなのです。

あなたが「一貫性のある自己表出」が心からできているのならば、やりたいこと、やれること、やれる環境がみんな合致している「幸せな人」であるため、ほかの自己が表面化せずに済んでいるだけなのかもしれません。

石川 幹人 明治大学 教授

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いしかわ まさと / Masato Ishikawa

1959年東京生まれ。東京工業大学理学部応用物理学科(生物物理学)卒。同大学院物理情報工学専攻,企業の研究所や政府系シンクタンクをへて,1997年に明治大学に赴任。人工知能技術を遺伝子情報処理に応用する研究で博士(工学)を取得。専門は認知科学で,生物学と脳科学と心理学の学際領域研究を長年手がけている。主な著書に『人はなぜだまされるのか~進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス),『だまされ上手が生き残る~入門! 進化心理学』(光文社新書),『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)がある。

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