近藤誠氏のセカンドオピニオンを受けてみた 「抗がん剤は効かない」は悪魔の証明

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近藤氏は、抗がん剤などの薬物療法に関しても、徹底的に批判的な主張を展開している。著書『がん治療に殺された人、放置して生きのびた人』の中で、次のように述べていた。

「抗がん剤は農薬や毒ガスと同じで、毒性は過酷です。(中略)1回で死ぬこともある。きっぱりと拒んでください。
がん治療が地獄なら、放置は天国です」

2011年に卵巣がんが見つかった、高橋幸恵さん。首のリンパ節にも転移が見つかり、ステージ4と診断された。

近藤理論に当てはめると、「本物のがん」となる。つまり、手術などをすると、がんが暴れ出して治らないケースだ。

高橋さんは手術で卵巣や子宮などを摘出した後、8カ月間に及ぶ抗がん剤治療を受けた。全身の毛が抜け、倦怠感や指の痺れにも悩まされたという。

厳しい治療を経て、主治医は「寛解した」と高橋さんに告げた。

一度も再発せず、元気に暮らしている

高橋さんは、新聞広告で近藤氏の書籍を知った夫から、「抗がん剤をしない選択もあるらしい」と言われたこともある。それでも高橋さんは、手術と抗がん剤の治療を選んだ。理由は主治医が信頼できる人だったこと、セカンドオピニオン受けて、主治医の治療方針が正しいと確信したからだった。

 あれから9年間、卵巣がんは再発せず、高橋さんは元気に暮らしている。もし、放置療法を選んでいたらどうだったか、ご本人に聞いてみた。
「体内のあちこちに転移して、今はもうこの世にはいないでしょう。100%死んでいたと思います」(高橋さん)

 近藤氏の主張は、シンプルで分かりやすい。海外の論文などを引用しているので、一見すると説得力がある。
だが、高橋さんのように転移があっても完治した人が少なからず存在していることを考えると、近藤理論は破綻しているのではないか。

 近藤氏はセカンドオピニオンで、私にこんな事も言っている。
「不安を解消しようと思ったら、もっと僕の本を読まないと。(持参した)その2冊じゃ足りないよ」

『やってはいけないがん治療 医者は絶対書けないがん医療の真実』(世界文化社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

 現代医療を否定する50冊以上の著書の印税で、近藤氏は億単位の莫大な利益を得ている。同時に、不況にあえぐ出版界にとっても、「近藤誠」のネームバリューは、大きな売り上げが見込める貴重なコンテンツだ。
 近藤氏が、まるでカリスマ医師のような存在に祭り上げられているのは、がん医療の実績ではなく、出版界の都合なのである。

 がんとの関わり方で、「あえて治療しない」という選択もある。それは否定しない。例えば、患者が高齢の場合には積極的な治療をしないほうがよいことがある。そのほうが人生の最晩年を穏やかに過ごせ、患者本人にも家族にも幸せといったケースがあるだろう。

 同時に、手術、放射線、抗がん剤などの治療をすると「がんが暴れて命を縮める」という近藤氏の主張は、医療現場で完全に否定されている事も知っておいてもらいたい。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。

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