宇宙でも勃発!「中国」VS「米国」覇権争いの行方 中国は月での領土確保を着実に進めている

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第3フェーズとなる「嫦娥5号」では、月の土壌サンプルを持ち帰る予定だ。探査車は月面に降り立ち、月の表面を約2メートルの深さまで掘って土壌のサンプルを採集する。着陸用カメラ、光学カメラ、無機分光器、土壌ガス分析器、土壌成分分析器、温度計測器、機械式ドリルなどが積み込まれる予定だ。

サンプルリターンは軟着陸に比べてはるかに難易度が高い。土壌成分の分析により、月面での植物栽培が可能かどうか、また「レゴリス」と呼ばれる月表面の物質が資源として利用可能かどうか、見極められるのではと期待される。「嫦娥5号」の打ち上げは2020年が予定されている。

中国は月面での命名権も行使した。「嫦娥4号」が着陸した地点は「天河基地」と命名され、国際天文学連合(IAU)もこれを承認した。中国はすでに「嫦娥3号」が着陸した地点や「玉兎」が走破した経路を、「広寒宮(こうかんきゅう)」「紫微(しび)」「天市(てんし)」などと命名しており、月面で中国名のつく地点は27カ所となった。

10年以内に月の南極に研究基地の建設も

宇宙条約は月を含む天体に対して「いかなる国も領有権を主張できない」と定めているが、命名権の行使がアメリカの神経を逆なでしたことは疑いない。さらに中国は2017年、北京航空航天大学に月面基地を模した「生命保障人工密閉生態システム実験装置」の「月宮1号」を建設、8人が最長200日間、密閉空間内で植物を栽培しながら生活する実験を行った。

「月宮1号」は総合棟と2棟の植物棟からなり、総合棟には居住スペース、作業スペース、トイレ、廃棄物処理施設などがある。2つの植物棟では多様な植物に適した環境条件を整えており、月面で宇宙飛行士が長期間生活するための研究が続けられている。

中国は有人月面着陸の時期を明示していないが、ロケットの開発状況などから2030年代前半と見られている。国家航天局幹部は、「10年以内に月の南極に研究基地を建設する」と発言している。

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「嫦娥4号」の成功にアメリカは衝撃を受けた。1972年の「アポロ17号」以来、旧ソ連を含めてどの国もできなかった有人月探査に、中国がチャレンジを始めたからである。アポロ計画で月面に足跡を刻んだ宇宙飛行士(ムーンウォーカー)は全部で12名だ。

うち存命なのはアポロ11号のバズ・オルドリン、15号のデイヴィッド・スコット、16号のチャールズ・デューク、17号のハリソン・シュミットの4名だけである。13人目のムーンウォーカーはアメリカ人か、それとも中国人か、「月」をめぐる米中の争奪戦が始まった。

倉澤 治雄 科学ジャーナリスト

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くらさわ はるお / Haruo Kurasawa

1952年千葉県生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。フランス国立ボルドー大学第三課程博士号取得(物理化学専攻)。日本テレビ入社後、北京支局長、経済部長、政治部長、メディア戦略局次長、報道局解説主幹などを歴任。2012年科学技術振興機構・中国総合研究センター・フェロー、2017年科学ジャーナリストとして独立。著作に「原発爆発」(高文研)などがある。

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