「Apple Card」がシリコンバレーに与えた衝撃 利益度外視でアップルが金融に参入する理由

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そればかりではありません。このカードをアプリの中に登録するアップルペイで買い物をすれば、すべて2%引きで買えるのです。アップルペイにするだけで、です。さらに、アップルと提携している小売店やレストランになると3%の割引になります。

アップルカードを持っているだけで、これだけの割引になる。カードを持っているだけで、です。実際、アップルカードを持つ人が増え、街中で次々に何が起きたかというと、小売店やレストランで顧客からこんな質問が出るのです。

「アップルペイは使えますか?」

アップルペイにするだけで、2%割引になるわけですから、当然だと思います。実は私もそうでしたが、アップルカードを持っている人は、そう質問するのです。

そうすると、小売店やレストランの側はどう思うか。こんなにみんなが「使えますか?」と尋ねるのだから、入れておかないとまずいな、ということになるはずです。こうして、アップルペイが使える店がどんどん増えていくことになった。

要するにこういうことです。アップルカードを持っている人が全員、アップルペイのセールスパーソンになってしまったわけです。アップルは買い物について1%、2%の割引をすることで、強力なセールス部隊を手に入れたようなものなのです。

金融事業で儲からなくても構わない

では、なぜアップルはこんなことをやっているのか。アップルユーザーであることの利点にするためです。スマホの性能がどんどん上がり、iPhoneと遜色ない機能を持つ中国製品が半額くらいで買えてしまったりする。だから、そこで競争するのをやめた、ということです。サービスでユーザーを囲い込もうとしているのです。

そしてアップルは、金融事業で儲からなくても構いません。本業は別にあるからです。だから、収益度外視で金融事業に取り組んでくる。金融を、ユーザーを囲い込むためのマーケティングツールとして使ってくるということです。

日本の銀行、金融業界は、ここに太刀打ちできるかどうか。あるいは、金融事業で儲けようと考えていた人たちが、本当に儲けられるのか。フリーミアムのようなことが、金融の世界でも起きてくる可能性があります。

私はいずれ、金融機関は金融単体で、手数料で収益を出すことが難しくなっていくと思います。独立系の金融機関はこのままいくと収益源が先細りになります。プラットフォーム事業を手がける会社のサービスの一環として、下請け化していくということです。

アメリカでは証券の売買手数料が無料という証券売買アプリ「ロビンフッド」が登場しています。オンライン証券大手のチャールズ・シュワブは同業のTDアメリトレードを買収し、証券会社大手のモルガン・スタンレーはオンライン証券大手のEトレードを買収しました。手数料では儲からないという判断により、ここまで危機感は高まっています。

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