黒人差別を肯定した「風と共に去りぬ」のヤバさ オスカー受賞でも差別された黒人女優の悲劇

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リドリーの指摘は、『風と共に去りぬ』の問題点を凝縮している。この映画は、まさに白人が見て、「あの頃は良かったなぁ」と思いを馳せるものだ。「あの頃」とは、奴隷所有が許されていた時代である。

そもそも映画は、「かつて在りし騎士道と綿畑の地。人はその地を古き良き南部と呼んだ。その麗しい世界で最後に花を咲かせた、勇気ある騎士たちと艶やかな淑女たち、奴隷を従えた主人たち。今は歴史に記されるだけの儚い思い出となった大いなる文化は、風と共に去りぬ……」という、アーネスト・ダウスンの詩のテロップとともに始まる。

物語は南北戦争前に始まり、映画は白人が黒人奴隷を所有し使役することが当たり前だったその頃の南部の幸せさと豊かさを強調する。ところが、奴隷制度に反対する北軍が勝ったことで、南部の人たちは苦境へ落ちる。「ああ、なんという悲劇」というわけである。

映画には南軍の負傷兵たちも出てくるが、自分たちの仲間をそんな目に遭わせたのは「非人道的な奴隷制度への固執」だということには、もちろん触れられない。

問題視される「明るい奴隷制度」

さらに、リドリーも指摘するように、この映画は奴隷制度が残酷なものだったことにはほとんど目をつぶっている。それどころか、奴隷たちは主人であるオハラ家に尽くすことが幸せであるような描写すらしている。何も知らない人が映画だけを見たら、奴隷制度がそんなにひどいものだとは思わないだろう。

『風と共に去りぬ』は、歴史を白人目線で振り返る映画だ。女性の奴隷が、白人女性たちの昼寝中に、棒についた羽のようなもので一生懸命涼しい風を送り続けるといったシーンを削除するというような程度では、とうてい差別的な視点を解消できない。

もうひとつ、舞台裏の話もある。今作では、ハティ・マクダニエルが黒人女優として初めてオスカー(アカデミー助演女優賞)を受賞したが、1940年の授賞式で彼女は共演者と同じテーブルに座ることを許されなかった。

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