コロナと共存する私たちに絶対欠かせない知識 危機に揺さぶられる政治、経済、外交の変質

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言うまでもなく、オンライン化は企業、教育、医療、娯楽などさまざまな分野で急速に進んできた。小原氏が指摘しているように、10年前にはZoomもNetflixも存在しなかったのだ。そう考えただけでも、この危機の中で進行している変化がいかに劇的なものであるかは想像にかたくない。

その変化を後押しするのが、平均ダウンロード・スピードの驚異的増大(10年前の35倍)とブロードバンド利用者の激増である。当時は想像もできなかったテレワークやオンライン授業の広がりが社会の風景を一変させている(152ページより)。

世界的に見た場合には遅れが目立つとはいえ、日本でもテレワークの導入は一気に加速した。しかしオンライン診療やオンライン学習をさらに進めるためには、世界のデジタル化とスマート化の流れに取り残されないよう、官民一体での取り組みが求められる。

また、新たなデジタル・ディバイド(情報格差)やプライバシーへの目配りも欠かせないと小原氏は指摘する。サイバー攻撃は常態化し、激化しているからだ。技術革新や国際政治の変化に応じた対応が、官民を問わず重要だということである。

また、多くの国で、マスク、消毒液、除菌スプレーなどが日常的な必需品として定着しつつある点にも注目しておく必要がある。日本ではコロナ以前から定着している印象があるが、中国でも「清潔」が新たな価値として意識されるようになったのだという。

そんな中で日本の医療や公衆衛生への関心が高まったため、安全・安心の日本ブランドにはビジネス・チャンスが広がっているのだ。

上海などの大都市を中心に「社会的距離」を置くことも市民の習慣となっているだけに、「健康」と「衛生」への意識が都市の人々の生活様式を変えていくだろうと小原氏は予測している。

価値観の変化—「安全」と「自由」

コロナ危機は、ウイルスという見えない敵との闘いである。そのため、国家が国民の安全を最優先するなかで問われるのは「人権」との関係だ。

「安全か自由か」という究極の選択を迫られた場合、多くの人は最終的に安全を選ぶことになるだろう。命を奪う可能性のあるウイルスを前にして、中国のような権威主義国家だけではなく、多くの民主主義国家もまた、戦時下のような自由やプライバシーの制限に踏み切っている。

国際人権規約は、「国民の生存を脅かす公の緊急事態(自由権規約第4条)における個人の権利の制約を認めている。しかし、この条文適用に当たっては、事態の緊急性と権利の侵害程度がバランスの取れたものでなければならないし(「相当性の原則」)、また一時的なものでなければならない(「時限性の法則」)。そこには、安全と自由は二律背反でも、二者択一でもないとの民主主義の理念がある(154ページより)。
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