ローカル企業の代謝を促す政策が必要だ

アベノミクス新年度の課題(2)冨山和彦

──安倍晋三首相は「瑞穂の国の資本主義」という言葉を用いて、欧米の市場資本主義とは異なる、利害調整型の経済運営を標榜している。

とやま・かずひこ 1960年生まれ。コーポレイトディレクション社長、産業再生機構COOなどを歴任した企業再生の専門家。2007年経営共創基盤を設立。

日本特有のルールをグローバル経済で活躍している企業に求めるのであれば、おかしい。グローバル経済はいわばオリンピックのようなものでルールは一つだ。

その点は安倍さんもわかっているのではないか。実際、この春、主要企業が労働組合の求めるベースアップに応じた根源は円安、株高が進み企業収益がよくなったから。政府から賃上げを求められたのはきっかけにすぎない。

グローバル企業は、内輪で意思決定をする村社会型の経営から急速に脱却している。社外取締役制度は定着しつつあるし、取締役に外国人がいることも珍しくなくなった。多くの経営者が、多様性を持ったコーポレートガバナンスこそがオリンピックで勝つために不可欠なものだと気づいているからだ。

企業の意思決定のあり方は、ここ数年で大きく進化したと実感している。たとえば私自身が社外取締役を務めるオムロンは取締役会を4時間も行う。妥協のない徹底的な議論をしており、取締役会が名実ともに経営の意思決定を行う場になっている。

日本的経営の代表だった日立製作所も完全にグローバルスタンダードのガバナンスになったし、トヨタ自動車も脱皮しつつある。好業績のさなかにオーストラリアからの撤退を決めたが、経営陣が切れ味鋭いジャッジをする、というのは従来のトヨタからかなり変わってきた印象だ。

ローカル経済圏に課題

──グローバル企業は正しい方向に進んでいる、と。

グローバル企業は、オリンピックルールで戦っているので、政府が行うべきは、法人税率などの立地条件を整えること。欧米企業のアジア拠点などを呼び込む努力も必要。これは特区などを使うことにより着実に進みつつあると評価している。

その一方、ローカル経済圏には大きな課題が残っている。ローカル経済圏とは、具体的には、公共交通(鉄道・バス・タクシー)、物流、対面で行う飲食や小売り、宿泊施設、社会福祉(医療・介護)などのサービス業だ。こうした経済圏は今やGDPや雇用の60~70%を占める。日本だけでなく、先進国には巨大なローカル経済圏が必ず存在しており、そこはオリンピックルールで運営されているわけではない。海外企業との競争にさらされるわけではないため、ここは「瑞穂の国の資本主義」であって、一向に構わない。

地域のサービス産業は、もともと生産労働人口減少で構造的・慢性的な人手不足が以前から深刻化している。アベノミクスによって景況が改善した今こそ、ローカル経済圏を改革するチャンスだ。

ローカル経済圏の課題は、長期にわたって新陳代謝がないこと。まず中小サービス産業における穏やかな退出、つまり「代謝」を促す必要がある。日本の中小企業政策の基本はずっと変わっていない。産業の二重構造論で、中小企業とはすなわち大企業の下請け、という発想で法制が組まれており、弱者保護、延命型。一言でいえば「守りの中小企業政策」だった。

しかし、今はこれが機能していない。政策の目標を根本的に切り替えて、生産性の高い企業に事業と雇用を集約化させ、そこが安定した雇用を生むように進化させるべき。つまり、「攻めのローカル企業政策」へと転換するべきだ。

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