ローカル企業の代謝を促す政策が必要だ アベノミクス新年度の課題(2)冨山和彦

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──「中小企業政策」ではなく、「ローカル企業政策」が必要だと。

そう。大企業、中小企業という具合に規模で切り分けて「中小企業政策」というのはナンセンスだ。中小企業であってもオリンピックを戦うグローバル企業もある。逆にローカル企業の中に、従業員1万人を超えるような大企業があっても不思議ではない。その意味で、言葉の使い方は「グローバル」と「ローカル」で分類するべきだろう。

ローカル経済圏において集約の主体になるのは、おそらく経営力のあるローカル資本だ。地域密着型のサービス産業は、それほど資本集約的ではなく、高い資本リターンも見込めない。規模の経済性よりも密度の経済性が効く世界であり、中央大資本にとってあまり魅力的ではない。比較優位もない。つまり地域一番店型の企業が発展していくことになる。

グローバル企業は、今後も日本国内での雇用を減らしながら世界へ軸足を移す可能性があるため、雇用の受け皿という意味でも、強いローカル企業が育つことは重要だ。

──安倍政権が具体的に行うべき政策とは?

まず、企業の再編を促進する再生型の倒産法を整備するべき。たとえば私的整理の成立要件に「債権者の多数決で構わない」という項目を加えるだけで、大幅に動きやすくなる。また経営者が個人保証でがんじがらめとなってやめるにやめられない、という事態を緩和するため、転廃業時の個人保証を限定化することも考えられる。もう一歩踏み込んで「転廃業支援金」「事業譲渡促進支援金」などの制度があってもいいだろう。

さらに地域密着型のサービス業では、産業別・地域別最低賃金を引き上げるべきだ。賃金引き上げで効率的な経営をできていない企業の退出が促される一方、産業特性上、空洞化は起きにくい。実は、低すぎる最低賃金が、いわゆるブラック企業問題の一因にもなっている。最低賃金の引き上げは、ブラック企業の排除と優良企業への雇用移転を促す効果も期待できる。

また、この手のサービス業は、無形の暗黙知というものは少なく、意外に業務内容はユニバーサル。バスの運転手はどこの会社であっても運転の基本は変わらない。介護サービスも、どこであっても通用するスキル。それに対しグローバル経済圏の代表である製造業は、会社ごとの無形の暗黙知が多く長期雇用が前提となって継承される。つまり、ローカル経済圏のほうが雇用移転は容易。深刻な労働力不足になっている中、再編を促しても労働力の移転はスムーズに進むはずだ。

チャンピオンを目指せ

──グローバル企業は正しい方向に進んでいるとの評価だが、今後の課題はどこにあるか。

日本経済という視点から見ると、グローバル企業の役割は貿易収支、所得収必要がある。世界で100億円というニッチ市場であれば40億~50億円を取り、そこでのチャンピオンを目指す。

トップクラスの売り上げシェアは、今やグローバルな競争力と収益力の必須条件。各分野の世界王者級でなければ生き残りも難しいのだ。それだけの売り上げとシェアがあれば、R(利益)は必然的に大きくなる。ROEについては、後で経営の工夫で高めることもできる。

(撮影:今井康一 =週刊東洋経済2014年4月19日号〈14日発売〉核心リポート アベノミクス新年度の課題2

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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