医療業界へのサイバー攻撃激増、各国の危機感 米政府は医療機関への情報提供など業務拡大

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アメリカのマルコ・ルビオ上院議員(共和党)もFBIとCISAの文書を受けて同日に声明を出した。「中国政府は、新型コロナウイルスによって発生した新たな現実に適応するため、『千人計画』をオンラインに移行させており、新型コロナウイルス関連情報を求めてアメリカの医療研究機関へのハッキングを増やしている」と警告している。

千人計画は、中国政府が海外の優秀な研究者を好待遇で招聘し、知見や研究成果を中国の経済的・軍事的利益に資するために移すことを目的として2008年に作ったものである。国防総省の2018年時点での試算では、中国による知的財産の窃取の損失額が、1年あたり3000億ドル(約33兆円)に達した。

イランがアメリカの製薬大手にサイバー攻撃

アメリカの製薬大手ギリアド・サイエンシズがイラン政府系のハッカー集団からサイバー攻撃を受けていたことが明らかになった。5月8日にロイターがスクープで報じた。その前日には、厚生労働省が日本国内初の新型コロナウイルス感染症の治療薬として、同社の開発した抗ウイルス薬「レムデシビル」を承認したばかりである。

4月には、ジャーナリストを装ったなりすましメールがギリアド・サイエンシズの法務・総務部門の幹部に送られた。偽のメール・ログインページを使って、パスワードを盗もうとしていた。ロイターは、このサイバー攻撃が成功したかどうかは不明としている。

イラン国連代表部の報道官は、イランのサイバー攻撃への関与を否定した。「イランのサイバー活動は防御のためだけに行われており、イランのインフラを攻撃から守るためにしている」と主張している。

ドイツに本社を持ち、医療機器や医薬品の製造・販売や医療施設の運営などを行うヨーロッパ最大級の医療企業グループ「フレゼニウス・グループ」(社員数は約30万人)は、5月4日に身代金要求型ウイルスによる攻撃を受け、製薬部門の製造の一部に支障が出たことが明らかになった。

ノルウェーの新聞によると、影響が出たのはノルウェーの製薬部門である。同グループの広報担当は、ノルウェーの工場での製造に「ある程度制約」が出ていることは認めているが、どの程度かは説明しなかった。

フレゼニウス・グループは、集中治療用病床数を900床から1500床に増やし、新型コロナウイルス患者の治療用としてアメリカの病院のために150個の透析装置を追加製造するなど、新型コロナウイルスとの戦いに注力している。同グループのアメリカにおける透析装置の市場占有率は、40%にも及ぶ。

そのため、本件を最初に報じたアメリカの著名なサイバーセキュリティ・ジャーナリストのブライアン・クレブスは、腎疾患と新型コロナウイルスの関係に言及し、身代金要求型ウイルスによるサイバー攻撃がこのタイミングで行われたことに懸念を表明した。

フレゼニウス・グループが今回、身代金を支払うかどうかは不明である。クレブスによれば、以前身代金要求型ウイルスに感染した際、同グループは150万ドル(約1億6500万円)支払った。

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