原油価格が再び「急落する懸念」はないのか 産油国が供給を絞っても価格急回復はムリ?

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5月20日に発表された米エネルギー省情報局(EIA)の「週間石油在庫統計」によると、米国内の民間原油在庫は498.2万バレルと、市場の「積み増し予想」に反して2週連続での取り崩しとなった。

なかでも取引所によって先物の受け渡し地点に指定されているオクラホマ州クッシングの在庫は500万バレルを超える取り崩しとなり、ここ2週間での取り崩し量は800万バレルを大きく上回るまでに至っている。同月27日の統計では、逆に「市場の取り崩し予想」に反し、3週間ぶりに増加した。だが、クッシングの在庫は3週連続での減少となっている。こうしたトレンドを見る限り、貯蔵施設の容量不足の問題は解消に向かっており、期近限月の納会前に価格が急落するリスクも大きく後退したと判断しても良さそうだ。

特に「供給面の絞り込み」については、強気の見通しを維持しても良いだろう。サウジをはじめとしたOPECプラスが現在行っている大幅な減産は、期間が6月末までと定められている。だが、石油収入の大幅な落ち込みで産油国の危機感はさすがに高まっており、かなりの期間継続されることになりそうだ。

彼らの生産方針は政治的な動きに左右されることが多く、不透明感が払拭されることはないし、ロシアが7月以降減産幅を縮小すると意向を示しているのは気になるところだが、少なくとも価格が30ドル台に低迷している間は、積極的に生産を増やそうとする動きが出てくることはないだろう。一方、アメリカのシェールオイルに関しても、先行指標である同国内の稼働リグの大幅な減少が続いているのを見る限り、この先、生産がさらに落ち込むのは避けられない。2020年後半にかけて世界的に供給が一段と減少する可能性は高いのではないか。

需要拡大がそう簡単ではないワケ

一方、需要に関しては、あまり大きな期待を寄せないほうがよさそうだ。この先生産の減少が続いても、足元の需要がそれ以上に落ち込んだままとなる恐れは高く、過剰在庫の問題もすぐには解消に向かわないだろう。在庫統計では原油在庫こそ予想外の取り崩しとなったものの、一方でガソリンをはじめとした石油製品の在庫は高水準のままで、足元では依然として、供給過剰状態が続いている。

クッシングを中心に原油在庫の取り崩しが進んでいるのは、現物市場でクッシングなどの原油価格が下落、かなり割安な水準となったことを受け、製油所が稼働率を引き上げ原油の消費を進めたことによる部分が大きい。いったん石油製品の在庫が大幅に増加したのも、こうしたことの結果というわけだ。

ロックダウン(都市封鎖)が緩和に向かい、経済活動も徐々に再開しているが、全ての需要がコロナ以前の水準に戻るわけでは決してない。アメリカでは5月25日のメモリアル・デーの祝日以降、夏のドライブシーズンが始まるが、感染を恐れる人々は引き続き外出を控えるだろうし、自動車の使用は限定的なものにとどまることになるだろう。また国外への渡航制限も大幅に緩和される可能性は小さく、航空機の利用も落ち込んだままとなる可能性が高い。

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