著名人も強く関心!「種苗法」改正の大問題 野菜や果物のタネに「著作権」は必要なのか

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佐賀県にあるイチゴの栽培農家では、「いちごさん」という特産品の親苗が2019年11月以降、4件の盗難に遭っている。畑に立ち入られて、たわわに実ったイチゴが盗まれたのではない。育苗用ハウスに保管された親苗を盗むという犯罪行為だ。2018年8月に品種登録されたいちごさんは、育成者権を佐賀県が所有、農協を通じて認められた農家以外は栽培できない。佐賀県園芸課は栽培農家に対し、屋外にある親苗の保管場所には施錠を施すなど管理強化を呼びかけ、種苗法に関する研修を実施してきた。だが4月27日には同県杵島郡白石町の農家が最多の40数株の盗難被害に遭った。

元来、農業従事者には、次の作付け用に採種したタネを譲り合う慣習がある。農林水産省食料産業局知的財産課の担当者によると、「勝手に登録品種を譲っていたケースがあるなど、農業従事者の知的財産権保護への意識は緩い」という。

特産イチゴと言えば、2018年の韓国平昌五輪でカーリング女子チームが試合中にほおばったイチゴが、日本から持ち出された品種ではないかと、当時の農林水産大臣が疑いを指摘。それ以来、種苗の海外流出や指定地域外での無断栽培をどう阻止するかという課題の解決に向けて、海外での品種登録促進、許諾と罰則の規定など、登録制度見直しが検討されてきた。

種苗法改正は新品種の自家増殖を許諾制とする。それでも、犯罪行為は防げないが、抑止効果は高まる。品種改良されたタネというハイテク製品の投資回収を早め、新たに官民協同の新品種開発・供給事業に役立てたい。農業の国際競争力向上と種苗ビジネス育成を結び付けた、農水省の産業政策がひも付いていると言えよう。

国内に流通する野菜種の9割が外国産?

実際に日本で流通する野菜の種子は、その9割が外国から輸入されている。新型コロナウイルスの感染拡大で、一時期品切れとなったマスクのような、医療用具とも似ている。よって、種苗法改正に反対する立場の者からは、「外国産に頼るようだと、日本の農業は行き詰まる」といった懸念の声が挙がっている。

農水省が2018年6月にまとめた資料『種苗をめぐる情勢』には「野菜の種子は、我が国の種苗会社が開発した優良な親品種の雄株と雌株を交配することでより優良な品種が生産されるが、この交配の多く(約9割)が海外で行われている」と記されている。実際のところどうなのか。

群馬県嬬恋村は高原キャベツの収穫時期を迎える。地元の生産農家は種苗メーカーから農協を通じて購入。サカタのタネが開発した「青琳」が最も多く、次が一般品種の「初恋」だそうだ(記者撮影)

花と野菜種子で世界6位の規模を誇るのがサカタのタネ。世界で年間200億円の市場規模があるブロッコリーで約65%のシェアがあることでも知られる。「たくさんのタネをいつも同じ品質で供給するには外国で作らざるをえない現状がある」と清水俊英・コーポレートコミュニケーション部長は打ち明ける。

その理由として、①日本の季節ごとに変化する過酷な気象条件が大規模なタネ作りに適さない、②多くの野菜の原産地が国外なのでふるさとに近い土壌で良質なタネが安定して手に入る、③日本の土地代や労賃が高すぎて企業として適正な価格での供給責任を果たせない、の3つを挙げた。

サカタのタネの場合、安定供給と効率化を実現するグローバルサプライチェーンの整備を、生産部門の成長戦略に掲げている。新型コロナによる経済活動の停滞で輸入がストップする事態は起きないとし、清水部長は「国内で在庫をある程度持っており心配はない」と述べる。

「たとえば、欧米の各拠点から入ってこないとインドから出荷する、といったリスク分散はしている。日本に集中させるなら、台風被害で採れなかった場合が恐ろしい」とも漏らす。国内外とも採種する農家との生産委託契約を結び、自社工場を持たないファブレス経営だ。「関税率が3%程度と低い種子はボーダレスで流通しており、種苗法の改正によって大きな変化は出てこない」との見方を示す。

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