新幹線10年目の青森、ねぶた中止で試練の夏 暖冬とコロナが影、危機の1年どう乗り切るか

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NPO法人「あおもり若者プロジェクト クリエイト」も、さまざまな余波に揺れている。この団体は、新青森駅開業をわがこととして迎えよう」と思い立った高校生たちの集まりが前身だ(2015年7月9日付記事「東北新幹線の延伸で沿線都市が得た『果実』」参照)。2014年にNPO法人化され、大学生、中心市街地の商店主らを核とした「高校生の教育とまちづくり」を実践してきた。

新青森駅と同じ年月を重ねてきた彼らの活動は、やはり今年10周年を迎える。2月初めには2019年度の活動の中間発表会を開催し、3月半ばに成果発表会を予定していた。例年は高校生と大学生、市民ら100人近くが集まり、熱気あふれる質疑が展開される場だ。しかし、今回は成果発表会の中止を余儀なくされた。審査員と限られた関係者が会場に集まり、インターネット回線を通じて、在宅の高校生へ活動のフィードバックを行う形に縮小して実施した。

「コロナ禍の長期化が懸念され、少人数・対面でのコミュニケーションを進めがたい時代になった。『地域との向き合い』と『教育や学び』が相いれない、という課題に直面したと感じている。これは、実は『まちづくりと教育』というテーマに内在していたが、見逃してきた課題だった。他のボランタリー組織も同様に、活動の転換を求められている。『ウィズ・コロナ』の時代を見据え、活動の舵を切っていく必要がある」

そう語る同法人の久保田圭祐理事長は、市民や学生スタッフとともに、主にネットによる本年度の活動を検討中だ。

祭り、まちづくり、そして「まちの原点・在り方」をめぐり、市民の模索が続く。ねぶた囃子団体が、“リモート合奏”をYouTubeにアップしたり、市民団体が、ねぶたをデザインした布マスクを制作、市に寄贈したり、といった取り組みも生まれている。

どうなる新幹線の将来像

筆者にとって、青森市は出身地であり、整備新幹線の研究に携わった原点でもある。そして、当連載で取り上げてきた「新幹線がもたらすと期待された恩恵」は、どこまでも「人の移動の増大と迅速化は、多くの人に利益と幸福をもたらしうる」という、いわば仮説の上に成り立ってきた。

しかし、新型コロナウイルスのワクチンや特効薬の開発が見通せない状況下、「人が活発に、迅速に、スムーズに行き交う」営みが著しく制約されるだけでなく、そのような状況や発想自体に懐疑的な視点が立ち上がっている。

5月14日、青森県など39県の緊急事態宣言が解除された。しかし、移動や対面を前提としないビジネスや生活の様式が急速に、全国に浸透し始めている。移動のニーズはいつごろ、どのような形で、どの程度まで戻るのか。建設中の新幹線各路線の完成見込みは――。今後の変化の行方によっては、建設計画にとどまらず、既存の新幹線ネットワークの経済的、社会的機能にも、大きなうねりが押し寄せるかもしれない。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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