「テレワーク急増」で浮上する意外な落とし穴 マイクロソフト相談窓口に問い合わせが殺到

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ところが、実際には会社のルールだからとVPNを通そうとして、円滑に使えないと困っている例も多いという。「“この作業や会議の参加ではVPNの利用は必要ありませんよ”といった情報を提供し、社内的にも啓蒙するなどのアドバイスをしています」(藤本氏)。

これまでなかったワークスタイルを強いられる中、さまざまな面で未検証の問題が顕在化していると捉えられるが、同じように“今だからこそ”顕在化しているのが、マンションなど集合住宅におけるネット環境の問題だ。

建物にはギガビットレベルの光回線が引き込まれているものの、その回線を共有する世帯が想定以上になり、帯域不足でビデオ会議が円滑に行えない状況が起きているケースもある。

こうした帯域の問題は日本だけではなくグローバルで同時に発生していることから、前述したように使用するネットワーク帯域を確認しながら、ビデオや音声の品質を動的に調整する仕組みを開発する必要に迫られている。

大きな壁となる“社内ルール”

もっとも、そうした問題に至る前に壁にぶち当たるケースも多い。

そもそもパソコンの持ち出しが許されていない企業が少なくないからだ。ごく一部の社員だけがノートパソコンの持ち出しを許され、さらにそのパソコンを社内のシステムに接続するためにセキュリティーデバイスを持ち歩かねばならず、急にほとんどの社員がテレワークといっても、パソコンを持ち出し可能にする前提条件となる環境を整えることが不可能といったケースだ。

一部企業ではBYOD(社員が自分で購入した機器を業務用に持ち込んで使用すること)も進んでいるが、管理部門がない企業ではBYODを受け入れたくとも、その体制を整えられない会社も多いだろう。

さらに、たとえこのルールを見直したとしても、その先にもハードルは続く。社内のネットワークからしかアクセスできない業務が、あるいは印鑑を必要とする業務が1日の間に1つでも存在すると、結局は出社しなければならないからだ。

「たとえ30分で終わる業務でも、出社しなければ動かせないことがあると、そこで物事が進まなくなってしまう。そこで出社が必要な業務をリストアップし、1日かけてできることをスケジュール化。ローテーションを組んで、順番に1人ずつ出社することで、社員同士が接触せずに効率よく業務を進めるなどの提案を行っています」(藤本氏)

そもそも紙が必要な業務を廃止すればいいのではないか――。誰もがそう考えるだろうが、業務は社内だけで完結できるものばかりではない。取引先、とりわけ先方が上流にある場合、下流側の企業はルールを先方に押し付けられない場合もある。

「ペーパーレス化はテレワークへのニーズにより、中小企業のほうが前進しやすいが、それを大手企業が妨げているケースも少なくない。大企業が“ハンコの廃止”を進めれば、そこから受注している数百の企業が助かる事例はたくさんある」(藤本氏)

マイクロソフトが強調するのは、テレワーク推進に関するノウハウはマイクロソフトをはじめ、ITソリューションを提供する企業に集まっているということだ。

安心してBYODを許容可能にするには、どのような点を考慮すればいいのか。

相談窓口ではその評価ツールを提供し、どこにテレワーク化へのボトルネックがあるのかを診断できるという。また、スマートフォン内で会社用と個人用の通信料金を分けたり、メールやスケジュールなどの情報を管理するOutlookの画面を共有できなくするといったセキュリティー設定の変更をサポートできる。何から手をつけてよいのかわからない。そんなスタート地点でも構わないので、ぜひ相談してほしいと話した。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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