人身事故が激減、東急の「全駅」ホームドア戦略 あの手この手繰り出して整備計画を前倒し

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国交省が2月に公表した「東京圏の鉄道路線の遅延『見える化』」によると、2018年度に対象45路線で発生した30分以上の大規模な遅延(452件)のうち、52%は「自殺」が要因だった。また同年11月の平日に起きた10分未満の小規模な遅延(709件)のうち、48%が「乗降時間超過」、6%が「ドア再開扉」で過半数が駅の混雑に起因していた。

遅延対策には、ホームドアの整備といったハード対策に加え、利用者側の行動に働きかけて混雑を減らすソフト面での施策も必要だということがわかる。

遅延・混雑解消へあの手この手

東急がすべての駅でホームドアの設置を完了したことで、同社線の安全・安定輸送が向上することは間違いなさそうだ。だが、取り組むべき課題は多い。 国交省の2018年度のデータを見ると、田園都市線の通勤時間帯の混雑率は182%(池尻大橋―渋谷間)と高い。

池上線と東急多摩川線にはセンサー付きのホーム柵を設置してある(記者撮影)

1カ月(平日20日)当たりの遅延証明書発行日数は、東横線が14.6日と多く、田園都市線も13.3日で東京圏主要45路線の平均(11.7日)を上回っている。

田園都市線、東横線とも相互直通運転先でのトラブルの影響を受けやすいことも背景にあるが、混雑や遅延に対する乗客の不満の声はよく聞かれる。

東急もソフト面での対策にあの手この手を繰り出している。同社によると、最も混雑する朝のラッシュ時間帯の7時50分〜8時50分と前後の1時間では、東横線で約45%、⽥園都市線で約35%の混雑率の差がある。このため、早朝に電車を利⽤するとポイントがたまり、沿線の店舗で使える無料・割引クーポンに換えられるといった仕組みで混雑の分散化を図っている(現在は一時休止中)。併せて沿線を中心に展開するシェアオフィスを活用してもらい、リモートワークと時差出勤を促す考えだ。

新型コロナウイルスの影響が収束し、経済活動が回復すれば、通勤ラッシュ時の不快さも「平常」に戻っていくことが予想される。だが、鉄道会社の施策だけでは限界がある。利用者側も、政府の「緊急事態宣言」を機に広まったリモートワークや時差出勤の経験を生かすことで、混雑と遅延の低減に協力することはできるはずだ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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