テレビが再放送をなかなか本格化できない事情 制約多く迷う間に「コロナチャンネル化」の一方

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感染が怖いのは、自分の健康面以上に、周囲の人々や番組にかける迷惑が大きいから。もともとテレビ番組の収録や生放送は、さまざまな職種の人々が集まる密閉された空間であることが多く、“3密”(密閉・密集・密接)そのもの。ゆえに現在は少しのリスクでも軽視せず、「風邪やインフルエンザの初期症状が出ただけでも出勤を取りやめる」などの厳しい対応を迫られているようなのです。

さらに情報番組の出演者にも、「対策は徹底しているが、多くの人々が出入りするので感染の可能性はある」「当日、発熱があったら出演はできず、その場で帰ってもらう」などと告げたうえで出演の意志確認を行うなど、テレビ局はギリギリのところで頑張っているのです。

これらの苦しい状況を踏まえると、再放送を増やして人との接触を減らすことは、「スタッフと出演者を守り、世間の人々の支持を得る」という正当性につながるのではないでしょうか。当然ながらスポンサーや外部スタッフなどとの調整は進めなければいけませんが、スピーディーな対応ができれば、「再放送ばかりの番組表」というテレビ局サイドからの緊急事態宣言が発信できるはずです。

“コロナチャンネル化”させないために

安倍晋三首相が緊急事態宣言を行った4月7日夜、テレビ東京を除くすべてのテレビ局が横並びの報道特番を放送しました。報道特番を見た人は多かったものの、NHKと日本テレビ以外の世帯視聴率は7~8%程度。ネット上には、「『外出自粛しろ』と言われるから家にいるのにこんなに重苦しい番組は見たくない」「横並びで放送する意味はなくNHKだけで十分」などの批判が飛びました。

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もともと早朝から夕方まで生放送の報道・情報番組ばかりで新型コロナウイルスを扱っているため、「この日の日テレは朝4時から深夜0時まで“コロナチャンネル”と化した」なんて声も上がるなど、明らかに過剰でしょう。“コロナ関連の放送しすぎ”は、「テレビは不必要に恐怖をあおっている」などと言われる最大の要因となっています。

各局は今後も状況が変化するたびに報道特番を横並びで放送するでしょう。だからこそ、それを最小限にとどめ、人々に楽しさを感じさせられるテレビ局は支持を得られるはずです。しかも、その番組として適切なのは再放送。緊急事態だからこそ、無理して制作するのではなく、ふだんのように視聴率を求めず、リクエストをベースにした再放送こそが人々の心に寄り添うことにつながるのではないでしょうか。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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