医師が教える「コロナ感染データ」の正しい見方 誤読、デマを防ぐためのヒント

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次に死亡分析(MORTALITY ANALYSES)のほうに目を移してみましょう。

ここでは、各国での死亡率の違いを知ることができます。

死亡率というのは、分子が死亡者数、分母が診断された方の数で、割り算をした値になります。このうち、死亡者数は比較的正確に割り出せていると思いますが(実際には国によりその定義が異なるのですが)、分母の患者数は、先ほどの話と同様、検査の方針によって大きく変わります。

検査を積極的にやればやるほど分母が大きくなるため、例えば、検査を積極的にやっているドイツでは、死亡率がとても小さくなっているのがわかります。

このように、数字だけを単純比較して、この国は医療の質がいい、悪い、というような評価をすることはできません。

「検査数」という偏りを取り除いてみたい場合には、人口10万人中の死亡者数を表示することもできるようになっています。これにより、各国で、人口の大小を取り除いたうえで、どのぐらいの規模で死亡者が出てしまったのかが比較できます。こちらの場合、検査方針のばらつきの影響も取り除けるものの、例えば高齢者に感染が広がれば広がるほど死亡率が上昇する、医療機関がパンクしてしまえば同様に死亡率が上昇する、など複数の要因が影響を及ぼすことになります。

さまざまな要因でこの数字は変動しうるので、1つの要因だけを切りとって、この国は致死率が高いから、医療の質が低い、医療崩壊だ、と一意的に解釈してしまうと誤解が生じてしまいます。

データは参考程度にとどめ、今できることを淡々と

コロナ感染が世界中で深刻化する中、正確な情報にアクセスし、データを読み解くことの重要性は増しています。しかし、数字の見方を間違えてしまうと、状況判断を見誤る可能性があります。

情報収集は必要ではありますが、「データを見すぎない」ということも、このような中では意識しておくべきです。前述のとおり、解釈の妨げとなる数多くの因子を調整して読み解くのは簡単なことではありませんし、情報を集めすぎたことにより、不安が膨張しすぎてしまうこともあります。

数字を見るとついつい比較したくなるのが人間のさがですが、安易に比較して、自分なりの考察をSNSなどに投稿すれば、それはたちまちデマの温床になります。これらのデータは参考程度にとどめ、今できることを淡々と続けていくことが大切です。

山田 悠史 米国老年医学・内科専門医

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やまだ ゆうじ / Yuji Yamada

慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ『FNN Live News α』のコメンテーター、 WEBマガジン『ミモレ』やニュースメディア『NewsPicks』の連載の他、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事として活動。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社刊)、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)がある。Twitter:@YujiY0402

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