NECが"惚れた"蓄電池ベンチャーは何者か 競り負けた後も猛アプローチ、1年越しで傘下に

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「一番欲しいのは世界のチャネル」と語る、NECの庭屋理事

買収に熱を入れたのは、NECが注力分野とする大型蓄電システム事業の海外販売拡大に、大きな効果があると見たためだ。

2010年に大容量のリチウムイオン蓄電システム事業に本格参入したNECは、すでに国内の家庭用で数千台の納入実績を持つ。海外でも、イタリアの電力会社大手、エネル社向けに出荷していた。ただ、海外での営業力不足がネックとなり、事業は国内が中心だった。

一方、A123の蓄電システム事業はグローバル展開ではNECよりも先行しており、特に電力会社向けリチウムイオン蓄電システムでは世界トップクラスの納入実績がある。「一番欲しいのは世界のチャネル。特に実績主義が浸透している電力会社向けは、自力では一朝一夕に食い込めず、われわれが欲しい分野だった」と、NECの庭屋英樹・スマートエネルギービジネスユニット理事は明かす。

今後も、停電時のバックアップ電源や再生可能エネルギーを大量導入した際の電力安定化用途として、大容量蓄電システムの需要拡大が見込まれる。NECによると、世界の市場規模は2015年に2000億円、2020年は6000億円になる見通し。同社としても蓄電システム事業の売上高を、2020年をメドに1000億円規模まで引き上げる計画だ(現在は三百数十億円)。

インフラ向けは自国企業が有利

A123買収によって強力な販売網を手に入れたが、懸念もある。電力会社や携帯電話基地局などインフラ施設向け設備は国策とのつながりが密接なだけに、自国の電池企業が優先されがちだと言われる。そうした中で、A123も国内に大きな電池産業を擁さない南米や欧州などの国を中心に事業を展開してきた。

ただし、電池メーカーが集積する東アジアはそうはいかないだろう。NECも中国市場向けは万向集団との合弁形態にするなど、日本企業色がつかないように一定の配慮をしている。今後、少しでも多くの顧客を引き寄せるためには、攻めの意識と同時に慎重な根回しが求められる。

西澤 佑介 東洋経済 記者

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にしざわ ゆうすけ / Yusuke Nishizawa

1981年生まれ。2006年大阪大学大学院経済学研究科卒、東洋経済新報社入社。自動車、電機、商社、不動産などの業界担当記者、19年10月『会社四季報 業界地図』編集長、22年10月より『週刊東洋経済』副編集長

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