中国当局はなぜ新型コロナ記事を削除するのか 武漢医師のインタビュー封殺に「網民」が反旗

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国営の人民出版社傘下に月刊『人物』という雑誌がある。2020年3月号(3月8日発売)の特集は「武漢の医師」だった。その2番目の記事では、武漢中心病院救急部長の艾芬(アイ・フェン)のインタビュー記事を取り上げている。

取材時点の同病院では200人以上の職員が新型コロナウイルスに感染し、死去した医者も数人いた。記者はなぜ新型コロナウイルスの情報をキャッチしていながら情報を発信できなかったのか、なぜあまりにもひどい代償を払ったのか、これからどうなるのかといった質問を中心に艾医師にインタビューを行い、彼女の回答を淡々と記述している。

武漢の情報隠蔽を暴露したインタビュー

長い記事だが、感染初期の武漢の事実を克明に記している。要点をまとめると以下のとおりである。

SARSコロナウイルス:2019年12月27日から原因不明の肺炎患者が救急科に来て、その後、患者数が増えた。検査報告書を見て、(艾医師は)SARSコロナウイルスと思い、病院の公共衛生科と感染管理科に電話をして情報を共有した。さらに報告書に赤いマークを付けて携帯電話から医者仲間にその写真を送った。

後にその写真は(SNSでのスクリーンショットを通じて)世の中に出回り、同病院の李文亮医師も注意喚起をしたために、CCTVや新華社のニュース(1月1日)でデマを流した人物と決めつけられ、その後、李医師は2月7日に同病院で死去した。

叱責:1月2日に(艾医師は)医院監察科に呼ばれて非常に厳しい叱責を受けた。「武漢市中心病院の救急部長として、どうして組織の規律を乱すような行動をしたのか」と詰問され、「あなたは武漢市で世界軍人運動会以来の都市建設の成果をまったく顧みず、あなたは武漢市の安定と団結に悪い影響を与え、あなたは武漢市の発展を破壊してしまう元凶だ」とまで言われた。

さらに「救急部に200人以上いるスタッフ全員にこれ以上のデマを流してはいけない」と厳命された。そのとき、すでにデマを流した人物がいるという報道をCCTV、新華社などで見て自分も逮捕されると思った。

改竄:1月3日以降、病院の指示で新型肺炎を「両肺に感染が散在している」と書き直すよう要望され、さらに病院の責任者から繰り返し、「ヒトからヒトへの感染はなく、(新型肺炎は)防ぐことも治すこともできる」ということを強要された。医師・看護師の感染が急拡大していく。

私的立場で情報提供:1月23日に政府関係部門からの問い合わせがある。箝口令が厳しく敷かれる中、私的立場で真実を伝えた。「1月21日だけでも平日の3倍以上となる1523人の患者が殺到し、うち発熱患者は655人」と返答した。

病院の状況:廊下には患者があふれかえり、地下駐車場に車が入れなくなった。車内で亡くなる人や、診察まで待つ時間があまりにも長く倒れていく人が続出。医師の診察を催促するよりも、「早く患者を楽にして(死なせて)ほしい」という家族が出ている。

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