ザックジャパンの「大きな問題点」 ザック流指導が抱える”爆弾”

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スポーツメディアの2つの役割

これは自戒を込めて書かなければならないが、W杯に向けたメディアの雰囲気は4年前とは正反対のものになっている。4年前の南アフリカ大会の直前に、筆者を含めたメディアは痛烈に岡田監督のやり方を批判していたのに対して、現在は(これまた筆者を含めて)「選手の声」を報じることに力を注いでいる。

スポーツメディアの役割は主に2つある。ひとつは選手や監督といった「現場の声を報じる」こと、そしてもうひとつは客観的に現状を分析する「批評」だ。現在、日本代表の人気は選手の飛躍に比例して高まっており、報道で最も求められるのは選手の声になった。それを言い訳にしてはいけないのだが、メディアの軸足は「声」に置かれ、「批評」はあまり重視されなくなったのである。

もちろんセルジオ越後さんといった解説者の方が厳しい批評を続けているが、メインストリームにはなっていない。あくまで主流は「声」だ。こういう傾向とネットメディアの発達が相互作用し、ミックスゾーンにおける選手のコメントの録音とそのテープ起こし――という数年前では考えられなかった仕事も生み出された。

あくまでこれは個人的な感覚だが、現在のメディアの雰囲気は、惨敗を喫した2006年のW杯前と似ているように思う。当時、日本代表は中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一、高原直泰らスターがそろい、日本代表史上最強のチームと言われていた。メディアで求められるのは「批評」ではなく、「声」だった。ところが、フタを開けて待っていたのは、チームの空中分解だった。初戦のオーストラリアに劇的な逆転負けを喫したことで、責任のなすり合いが起こり、完全に自滅してしまった。

本田から言われたこと

日本代表選手は心理面でも次のステージに進んでおり、同じ過ちを犯すとは思えない。2006年W杯の経験を先輩たちから伝承して、2010年W杯に生かした長谷部誠や川島永嗣が、何か不測の事態が起こったときにブレーキをかけてくれるのではないかという期待もある。

しかし、もう衝突は起きないとしても、「ルールの復習」という地味な作業に取り組めるかを考えると、一抹の不安を抱いてしまう。メディアの報道によって現代表の主力はほぼ全員がスター化しており、派手なプレーに比べて、地味なプレーが称賛されづらくなった。

昨年、長谷部にメディアの批判がどれくらい影響を与えるかを尋ねたところ「報道から影響を受けることはまったくない」という答えが返ってきたが、チームを取り巻くムードはそれぞれの判断にわずかではあるが影響を与える……と個人的には考えている。W杯で勝ち上がるためには、地味で緻密な作業が絶対に必要なのだが、メディアのスタンスによって、それがおろそかになってしまう危険性があると思う。

この4年間、本田圭佑の「声」を報じることに大きなエネルギーを注いできた筆者が、こんなことを書くのは完全に自己矛盾だろう。ただ、そのアンバランスを反省したうえで、開き直って、ここからは「批評」の遅れを取り戻したい。

本田がCSKAモスクワでプレーしているときに、こう言われたことがある。

「ジャーナリストは、ジャーナリストとしてのプロの仕事をすればいい」

今になって、その言葉の重みを感じている。

この連載はブラジルW杯の直前から、週1回のペースになる予定だ。厳しい批評に挑んでいこうと思う。

木崎 伸也 スポーツライター

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きざき しんや / Shinya Kizaki

1975年東京都生まれ。中央大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程修了。2002年夏にオランダに移住し、翌年からドイツを拠点に活動。高原直泰や稲本潤一などの日本人選手を中心に、欧州サッカーを取材した。2009年2月に日本に帰国し、『Number』『週刊東洋経済』『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『フットボールサミット』などに寄稿。おもな著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『クライフ哲学ノススメ 試合の流れを読む14の鉄則』(サッカー小僧新書)など。

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