東日本大震災9年、復旧鉄路はこれからが正念場 交通の全面復旧後は地域とともに「復興」を

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三陸鉄道の元北リアス線(宮古―久慈間)と元南リアス線(盛―釜石間)は、国鉄の特定地方交通線として廃止対象となった路線、および未開業のまま工事が中断した区間を引き継いで、1984年に開業した。国鉄赤字線を転換した第三セクターとしては第1号で、岩手県民の「マイレール」ともてはやされ、当初は黒字経営を達成。ローカル線経営の手本とまで言われた。

しかし、平成の半ば頃には財政が悪化。2009年には地域公共交通活性化再生法に基づいて、鉄道用地を沿線12市町村に無償譲渡し、貸し付けを受ける形での営業に切り替えた。そこへ津波を受けたのである。全線復旧は2014年、さらには同じく被災したJR山田線宮古―釜石間の運行も引き受け、2019年3月23日からは盛―久慈間を「リアス線」として一体運営している。

山田線移管区間も、鉄道用地・設備は、復旧のうえ、JR東日本から沿線市町村へ無償譲渡されており、現在、三陸鉄道は営業に必要な用地などを地元自治体から借りて運行する形となっている。それに加え、設備整備費用の補助や、修繕・維持管理費用の補助も三陸鉄道には投入されている。

三陸鉄道はJRと連携強化を

筆頭株主は岩手県であり、実態は県営もしくは市町村営に近い鉄道であるとも言える。それだけに地域振興に資する鉄道でなければならず、被災地の人口が大きく減少している現状では、観光客の誘致には、よりいっそうの努力が払われなければならない。

三陸鉄道の「こたつ列車」車内で行われる、地元の風習「なもみ」登場のイベント。観光客誘致が課題だ(筆者撮影)
JR八戸線の八戸―久慈間を走るグルメ列車「TOHOKU EMOTION」(筆者撮影)

幸い、観光資源に恵まれた地域であり、地元の海の幸などを売り物にした「こたつ列車」などが運転され、人気を博している。ただ、岩手県内陸部を走っている東北新幹線や、同じく内陸部にある花巻空港からのアクセスが、不便という不利な点もある。この点、やはり閑散路線である山田線の残存区間(盛岡―宮古間)や、JR八戸線、JR釜石線などとの、よりいっそうの連携強化が必要だろう。

現在、八戸線にはグルメ列車「TOHOKU EMOTION」、釜石線には「SL銀河」といった観光列車をJR東日本が走らせている。これらが三陸鉄道と連携した、都市部でのPRは積極的に行われているとは言いがたい。JR東日本の東北振興を目指したPRキャンペーンも、対象は自社の営業範囲内にとどまっている。また三陸鉄道が2019年の台風で再び不通区間が発生(2020年3月20日に全線復旧予定)したこともあり、かつては存在した盛岡発着の三陸鉄道直通観光列車も、一時、運転を中断している。

そこで、岩手県などの自治体の出番ではなかろうか。中立的な立場で、地域の観光アピールの視点から、鉄道に限らず、バス、飛行機、フェリーなどの交通機関を取りまとめ、三陸地方を一体的に盛り上げる取り組みを、今後、よりいっそう充実させることを望みたい。三陸鉄道自体も、その中で「生きてゆく」方策を立てやすくなるだろう。

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