演奏に順番待ち、江古田「駅ピアノ」は誰が弾く? 西武鉄道や地元大学の熱意で実現

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白羽の矢が立ったのは、練馬駅のとある駅係員だった。独学でピアノを学んだ係員が弾いたのは倉木麻衣の『渡月橋~君想ふ~』。選曲には理由があった。江古田高校という架空の学校が出てくる人気アニメ『名探偵コナン』の主題歌なのだ。歌詞も旅立ちの日をイメージでき、駅というここからどこにでも旅立てる場所と相性がよいのではないかと思ったという。選曲もまた江古田駅愛にあふれていることに驚いた。

では、江古田駅利用者の反応はどうなのだろう。取材のため何度か江古田駅を訪れたのだが、そのたびにピアノはいつもすてきな音楽を奏でていた。

子どもが弾き終わると、遠巻きに見ていた人が大げさではない拍手をしてくれて、その人がまたピアノの前に座る。そして席を立つと、また少し遠くにいた観客がピアノに近づいていく。

どこか、ささやかで、それでいて微笑ましいのは、皆でワークショップをしたときに出たキーワード「耳打ちしたくなる」ような街・江古田のピアノだからかもしれない。

設置は4月まで

矢吹さんが教えてくれたのだが、実は江古田駅のピアノを使って時折コンサートしているがあえて華々しく告知をしていないという。こぢんまりとした駅に、さりげなく自然に存在するアップライトのピアノというのが、実に江古田らしいと筆者も思う。

知人が一度見かけたことがあるのが、パーカッションを持ち込んでのコラボだった。本来ならほかの楽器を持ち込んでのコラボは禁止なのだそうだ。西武鉄道の方にその旨を聞いてみたところ、「おおらかにコラボしてしまうのも江古田の人なら、気軽に注意できるのも江古田の人たちなんです」と教えてくれた。

ひそやかに、おおらかに江古田駅のピアノは存在し、訪れる人たちの気持ちを楽しませてくれる。ピアノを弾く人、聴く人それぞれにドラマがあるだろう。

江古田はみんなのドラマすべてを包み込む街だ。「江古田駅というキャンバスに放出された若者たちのパワーを感じてほしい」と、渡邉さんと矢吹さんは締めくくった。江古田駅のピアノは今年の4月までの設置ということだが、小さなピアノがある駅が、これからも増えることを願っている。

さとう ようこ ライター、宣伝プランナー

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Yoko Sato

美術大学卒業後、クルマ会社のハウスエージェンシーにて広告宣伝・販売促進のクリエイティブディレクターを務める。転職した広告代理店に勤務していたときに担当していたゲーム会社から受託し、シナリオライターに。その後、顧問として家庭用ゲームソフトの広告ディレクターおよびコピーライターとなる。現在はゲーム会社出身のママ友に誘われ、エンターテインメント系デザインプロダクションにライター&プランナーとして参加している。

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