「米イラン戦争」開戦で語られる最悪のシナリオ 数百万人に上る犠牲者、ISの復活…

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イラン側も、重大な判断ミスを犯しかねない。トランプ政権がイランを軍事的にエスカレートさせないよう大規模な部隊の増派を行う場合、イランは、アメリカ軍による侵略のための部隊増強と判断する罠に陥るかもしれない。

地上戦に突入した場合、アメリカ軍にとって2003年のイラク戦争とは比較にならないほど困難で厳しい戦いになる。

イランは、当時のイラクの3倍近い人口規模で、国土も3倍以上の大きさだ。北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるトルコとは外交関係が悪化しており、対イラン軍事作戦で協力は得られない。

イランはイラクとの国境付近に大河があるほか、砂漠、山脈に阻まれて地上軍の進撃も容易でない。首都テヘランや全土を制圧するためには、アメリカ軍の総兵力に迫る160万人の兵力が必要ともいわれる。

数百万人が犠牲になると見る専門家も

アメリカとイランの戦争は、少なく見積もっても数千人から数万人、体制転覆を狙ってイラン指導部を強制的に排除するなら、数百万人が死亡すると主張する専門家もいるという。

イランも激しく抵抗するだろう。革命防衛隊は、短期間であればホルムズ海峡を封鎖する能力を有しているほか、石油タンカーを攻撃したり、機雷を敷設したりして、国際的な原油輸送を麻痺させる可能性がある。ソレイマニ司令官が育てたレバノンやシリア、イラク、イエメンなどの民兵組織やゲリラ組織が、サウジアラビアなどの湾岸諸国やイスラエルに攻撃を仕掛けるかもしれない。

欧米にいる「スリーパー(休眠分子)」がアメリカの大使館関係者やアメリカ市民を狙ったテロ行為を企てたり、アメリカの企業や電力、インターネットなどのインフラにサイバー攻撃を行うシナリオもありえよう。

アメリカの軍事専門紙ミリタリー・タイムズも昨年6月、軍事専門家10人以上へのインタビューに基づくアメリカとイランの開戦シナリオを掲載していた。2003年のイラク戦争のような大規模な占領を伴う軍事作戦を支持する人はいないと指摘しており、 ヴォックスが描いたシナリオよりは抑制的だ。

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