史上最悪だった「日韓関係」で次に起こること 安倍首相、文大統領とも関係改善には慎重か

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補償を求める訴訟を起こした韓国の労働者の弁護士たちは、文政権との対話を続けており、次の動きを遅らせている。しかし、これはいつまでも続けられるものではない。「私は今の時点では完全に楽観的にはなれない」と柳氏は語る。

外交を専門とする、あるベテランの日本人ジャーナリストも、状況の先行きについてやや慎重な見方をしている。「この二国間関係が底を打ってくれることを願っているが、底を打つだろうという確かな根拠は見つからない」とこのジャーナリストは語る。「私は、安倍首相と文大統領の間のこの冷戦が来年も穏やかな形で続く可能性が高い、と予測する1人だ」。

「関係悪化」はプラスにはならない

今のところ、この危機は停戦状態にある。文大統領も安倍首相も、早期の解決策を見いだすことにさして積極的ではない。

韓国の経済的ボイコットの日本への影響は、日本を訪れる韓国人観光客の劇的な減少に最も顕著に表れているが、まだわずかなものだ。緊張を和らげようとするアメリカからの圧力が加わり、「安倍首相には行動を起こす動機がある」と外交政策の専門家である東京大学の佐橋亮准教授は見ている。

とはいえ、日本の指導者にとって韓国との関係改善は、とりわけ保守的な有権者や議員を考えた場合、政治的メリットはほぼない。それどころか「彼らにとっては政治的資本が犠牲になるだけのものだ」と佐橋教授は語る。ただし、安倍首相が、昨夏に課した輸出管理のような韓国の反発を招く策を新たに取る可能性は低いと思われる。

一方、文大統領はと言うと、重要な総選挙を4月に控えている。北朝鮮との関係において起こりうる深刻な緊張への回帰は、南北朝鮮の関係をアジェンダのトップに据えている与党『共に民主党』に対する支持を弱体化させる可能性がある。元徴用工問題で日本と妥協する、という方策も、文大統領にとって大きすぎるリスクとなりうる。とはいえ、関係の悪化もまた文大統領にとってプラスにはならない、と関係筋の間では信じられている。 

「2020年4月に予定されている総選挙は、現職の文政権の一種の中間評価になるため、与党にとっては大事な決戦となる」と前出の柳氏は語る。「そして日本との関係悪化は選挙前にプラスにならないだろう。日本が厄介な方法でさらに刺激してくれば話は別だが、安倍首相がそういったことを再びすることはないのではないか。総選挙後には、韓国政府は日本との交渉においてより柔軟になると信じている」。

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