ソニーがエンタメで描く「2020年の事業プラン」 吉田CEOが掲げた「人に近付く」コンセプト

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かつてのエンターテインメントメディアは、映像にしろ音楽にしろ、あるいは写真にしろ、なんらかの感動体験を「プリザーブ(保存)」しておき、それをいつでも、好きな場所で繰り返し再生することに価値を見いだしてきた。

しかし、本質的には「その場、そのときに楽しみたいというのが本音です。世界で一番最初に、大好きなアーティストのPVを観たいとか、初日のライブに参加したい、あるいは通しで全ライブに行きたいなど。そうした熱量に対しての答えを、エンターテインメントを表現するクリエーター側にも、またファンの側にも提供する企業でありたい。われわれはそれを、“クリエイティブエンタテインメントカンパニー“というキーワードで呼んでいます」

バーチャルセットは3Dの映像空間を、360度オーディオは3Dで作られた音場を、SSVRは3Dでデザインされた音響空間を、それぞれにデジタルメディアとして捉え、集約して表現するキャンバスとし、最終的に3Dへとレンダリング(再現処理)する。

「一方で消費者との接点は一様ではありません。アイボの“愛らしい動き”にしても、カメラなどセンサーを通じた飼い主とのリアルタイムのコミュニケーションと動きの組み合わせです。それらが映画だったり、音楽だったり、あるいはゲームだったり、将来のVR/AR技術だったり。その間をつなぐリアルタイムの信号処理で勝負します」(勝本氏)

吉田CEOが掲げた「人に近付く」というコンセプトは、“人間の感性”に近付くためにクリエーターとそれを楽しむ消費者の間を取り持ち、圧倒的な体験をもたらすことのようだ。

「“人に近付く”手法に決まったやり方はありません。これからも新しい技術が登場するでしょうし、まだお見せできない投資している技術もあります。AI、ブロックチェーン、イメージング。5G時代にその特徴を生かすチャンスはたくさんあると思います」(勝本氏)

「Xperia One」がカギとなる

もっとも、研究開発の方向や目指すべきビジョンとしては理解できるものの、実際のソニー製品にはどう顕在化してくるのか。

「今後、さまざまなコンテンツサービスやB2Bでの価値創出などに取り組んでいきますが、最も身近なところでは、その時々のXperia Oneに新しい技術、エンターテインメントを流し込んでいこうとしています。現在はLTEですが、5Gになったときに何ができるようになるのか。また映像、音響ともにVR技術を盛り込んでいくと、どんなエンターテインメントが作れるのか。

またユーザー自身が、クリエーターとしてメディアに接することも重視しています。映画用カメラのCineAltaの世界を体験し、実際に映像を作り出せるシネマ撮影専用機能「Cinema Pro(シネマプロ)」も提供し、そこからグレーディング処理(撮影画像を作品として仕上げていく工程)されたカラーを選択して撮影することもできます。一方で医療や農業といった分野に、そうしたエンターテインメントで培った映像処理技術が生かされていたりします。特定事業向け市場は、最初は小さいですが、課題について深く理解して取り組めば、安定した事業へと成長しやすい」(勝本氏)

当面は医療向け事業で黒字を上げ始めているように、業務用ソリューションで安定した収益が得られるジャンルを増やしながら、5Gでは「映像も音も3Dで作られた仮想空間へとリアルタイムに」つながっていくための“仕込み”を粛々と行っていく。

1月6日になれば、米ラスベガスで世界最大のコンシューマー向けテクノロジーの展示会「CES 2020」が開催される。収益面では安定したソニーが、これからどこを目指すのか。すでに進む方向は定まっているようだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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