「日本のカジノ」に米サンズが100億ドルの賭け 日本は「世界3位」のカジノ市場に化ける可能性

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2月28日、世界各地でカジノホテルを展開する米ラスベガス・サンズのオーナー、シェルドン・アデルソン氏が、カジノ解禁に動く日本でのビジネスチャンスを虎視眈々と狙っている。都内で24日撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京/マカオ 28日 ロイター] -世界各地でカジノホテルを展開する米ラスベガス・サンズのオーナー、シェルドン・アデルソン氏が、カジノ解禁に動く日本でのビジネスチャンスを虎視眈々と狙っている。

総額100億ドルに及ぶ「ライバルが太刀打ちできない」(同氏)規模の投資方針を打ち出し、手つかずの巨大カジノ市場の日本でいち早く主導権を握ろうという思惑だ。すでに自民党議員らに積極的に売り込みを図っている同氏だが、その勝算の行方はまだ見えていない。

日本のカジノ構想は過去10年以上の間、浮き沈みを繰り返してきたが、その機運はいま、これまでにないほど現実味を帯びている。自民党などは昨年末、カジノ解禁を含めた特定複合観光施設(IR)の整備を推進するための法案を国会に提出、今年5月の大型連休明けに審議入りする見通し。同法案が予定通り国会を通過すれば、「IR実施法」の法制化に向けた作業が始まる。順調に手続きが進めば、カジノ第1号は2020年の東京オリンピックに間に合うタイミングで実現する可能性がある。

単独参入、日本側には不安視も

サンズだけでなく、MGMリゾーツ・インターナショナル、ウィン・リゾーツといった海外のカジノ運営企業や、セガサミーホールディングス<6460.T>のような国内ゲーム娯楽企業も、数少ないカジノ運営の認可を取得しようと準備中。MGMリゾーツのジェームズ・ミューレン会長兼最高経営責任者(CEO)は、ロイターとのインタビューで「このプロセスは非常に明瞭で透明性が高く、早い段階からの根回しして他社より優位に立とうとしても、それは無理だろう」と話した。

しかし、アデルソン氏はそうは考えていない。同氏は何カ月も前から、先陣を切るのは自分だと主張し続けてきた。昨年10月の決算発表後のアナリスト電話会議の議事録によると、アデルソン氏は、日本のカジノへの参入について、政治家を含め誰もがサンズが有利な立場にあると考えている、と述べた。

その1カ月後、同氏は、超党派議員で構成するカジノ議連(国際観光産業振興議員連盟=IR議連)の細田博之会長(自民党幹事長代行)に、熱のこもったプレゼンテーションを行う。関係筋によると、アデルソン氏は、東京の台場エリアの複合リゾート施設構想の模型を披露しながら、スライドを1枚1枚使って説明した。

ただ、政財界には、日本の国内企業がカジノ解禁で重要な役割を果たすよう望む声が少なくない。アデルソン氏の積極戦略とは一定の距離を置いている様子もある。

アデルソン氏の熱心なPRに対し、細田氏はシンガポールのIR施設と全く同じようなものを東京お台場に作っても成功すると限らないと話している。そして、東京には歌舞伎座などさまざまな文化があり、それらを有効的に活用した方がいいではないか、とのアドバイスをしたという。カジノ解禁には、運営側と地元の双方の理解と利害の一致が不可欠。それがなければ、成功はおぼつかないという実態をやんわりと示した格好だ。IR推進派の複数の議員も、アデルソン氏が現地企業と共同でなく単独で参入することをいとわない姿勢を懸念している、と関係筋は指摘する。

しかし、今週、都内で会見したアデルソン氏は、こうした懸念を気にする様子もなく、資本提携は望まないと述べた。IR議連のメンバー議員には、「誰も外資を規制しようとは思わないが、やはり日本企業が資本参加して投資機会を得た方が日本経済のためになると思う議員が多い」という。その理由は、「日本にお金が落ちるようにしたい。100パーセント外資だと、利益を海外投資に利用されてしまう可能性ある」(同関係筋)ためだ。

アデルソン氏と細田氏との会談についてラスベガス・サンズのコメントは得られていない。同社幹部へのインタビューもできていない。

世界第3位のカジノ市場に

カジノ運営会社にとって、日本は生活水準が高く、中国に近く、市場規模も大きい非常に魅力的なマーケットに映る。CLSAの試算によると、日本でカジノが解禁されれば、年間で総額400億ドル(約4兆円)の売り上げが期待でき、米国、マカオに次ぐ世界3位のカジノ市場となる可能性を秘めている。カジノ解禁は中国からの観光客を日本に呼び寄せるきっかけにもなりうる。

折しもアジアでは、米企業や、ゲンティン、メルコ・クラウン・エンターテインメント<6883.HK>、ギャラクシー・エンターテインメント・グループ<0027.HK>といったアジア勢が、マカオやシンガポールの成功を再現しようと、大規模リゾート施設の建設を進めている。その点では、マカオとシンガポールで成功を収めたアデルソン氏に一日の長がある。シンガポールにあるカジノ、高級ホテル、会議施設、商業施設を併せ持つ複合施設「マリーナ・ベイ・サンズ」は、カジノ合法化を推進する日本の議員の間で模範とされているからだ。

サンズは、自らの潤沢な資金やライバルを圧倒する時価総額も利点だと強調する。アデルソン氏は東京の記者会見で、「われわれは借り入れをせずに100億ドルを投資できる。ライバルにはできない」と胸を張った。 しかし、CLSAのアナリスト、アーロン・フィッシャー氏は、カジノ運営会社にとって資金力は深刻な問題にならないとみている。カジノ事業を有望とみる銀行から、積極的な融資を期待できるからだ。フィッシャー氏は、そのうえで、政治的コネも重要なポイントになる可能性があると指摘している。

熱帯びるロビー活動

カジノ法案の国会審議が近づくに伴い、大手カジノ運営会社はなんとか有利な位置に立とうと、議員と近い筋や地方政府関係者、東京の財界首脳に接触し、親交を深めようとしている。運営各社が共通して接触先リストの上位に挙げているのは、フジ・メディア・ホールディングス<4676.T>の日枝久・会長兼CEO、三井不動産<8801.T>や鹿島<1812.T>の幹部の名前だ。3社は共同で、カジノ・ホテルの総合型観光リゾート(IR)の建設を東京・台場エリアで提案しており、これら3社を押さえることは極めて重要な戦略的意味を持つ。

アデルソン氏のライバルの中には、すでに日本企業と組む意向を示している企業もある。MGMのミューレンCEOは、自社が過半数を握るコンソーシアムを結成することを念頭に、さまざまな業種の日本企業と協議していると述べている。アジア進出の実績がない米シーザーズ・エンターテインメントも「現地パートナーとの強固なコンソーシアム」を模索しているという。

一方、マカオのカジノ運営会社メルコ・クラウンは昨年12月、芸術文化の発展・継承を目的に東京芸術大学に1000万ドルの資金支援すると発表した。同社はロイターに、ラスベガスの二番煎じでなく、日本の文化や哲学を融合したリゾートの建設で独自性を出したいと説明した。

カジノめぐる戦いは、東京だけでなく大阪でも熱を帯びている。大阪市経済戦略局の井上雅之局長は、過去数カ月間にわたりカジノ運営会社の幹部が続々と訪問を受けている。大阪がカジノ運営会社に期待するのは、大規模な投資だけでなく、大阪を重要な観光拠点、会議開催地に進化させる企業だ。

井上氏は、「資本構成や運営会社が誰になるかというより、やはり提供できるものが"世界最高"でなければならない」と語る。まだこれから審議する法案をめぐり、カジノ認可をめぐる各社のレースはまだまだ難所が待ち構えている。

(Nathan Layne、Farah Master記者 翻訳:武藤邦子 編集:北松克朗)

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