小林武史さんの農場で"異分野の若者"が輝く訳 「なんでその仕事なの?」にはこう答える

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敷地内にあるレストランの外観(撮影:東洋経済オンライン編集部)

「小林さんは理屈より感性と情熱で突き進んでいくタイプなので、たまに、え?とびっくりさせられることもあります(笑)。それでも、ピンときたことや自分が正しいと思ったことを実際に形にするところまで持っていく力がある。そこはいつもすごいなと思っています」

このサステナブルファームを代表して、解説役を任されている新井さんだが、小林さんをはじめとした農場スタッフが求めていることと、決してサステナブルとはいえない社会とのギャップを、どう見ているのだろうか。

「小林さんはよく、『国家とか経済とかすべてフィクションなのに、今の世の中は“暴走フィクション”になってるよね』っていう話をしています。目に見えるリアルなものではないけど、それがあることでうまく回るものもある。でも今の時代はフィクションが暴走しすぎているから流れを変えたい、と」

「いのちのてがかり」

その思いを形にしたこの広大なファームを訪れる人たちも、少なからず今の社会のあり方に違和感を感じているのだろう。新井さんは、日々、来場者とやり取りする中で、「本当はもっと自然とつながって、人間本来のリアルな生き方、働き方を求めているんだなと感じることは多いですね」と続けた。

KURKKU FIELDSでは、「いのちのてざわり」を伝えることをコンセプトに掲げているが、代表の小林さんは最近、「いのちのてがかり」という言葉をよく口にしているという。自分は何のために生きているのか? 生きている実感を得るためにはどうすればいいのか? そんなことを考えるきっかけを、この農場をで見つけてほしいということなのだろう。

いのちのつながりという、圧倒的なリアリティーに満ちた世界で生きることを選んだ若者たち。しかし、同世代からは異質な見方をされることが少なくないそうだ。

「大学や大学院の同級生は、教師、弁護士、医者、公務員などになった安定志向の人が多いので、たまに会うと『なんでそんな仕事やってんの?』と聞かれます。でも僕は、人として当たり前のことをやっているつもりなんですよね。ここは、未来を生きていくために必要なことを実践している場所なので」

だからそう聞かれるたび、満員電車に揺られて家と職場を往復するだけの生活をしている友人たちに、新井さんは次のように聞き返しているとこっそり教えてくれた。

「そっちこそ、なんでその仕事をしてるの?」

何が正解かわからない世の中で、未来のために自分が正しいと思う道を選んで真摯に仕事に向き合う。そんな彼らの生き方は、これ以上ないほど豊かなのかもしれない。

樺山 美夏 ライター・エディター

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かばやま みか / Mika Kabayama

リクルート入社後、『ダ・ヴィンチ』編集部を経てフリーランスのライター・エディターとして独立。主に、ライフスタイル、ビジネス、教育、カルチャーの分野でインタビュー記事や書籍のライティングを手がける。

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