米国がデジタルヘルスブームでも直面する課題 市場は急拡大だが既存医療とのせめぎあいも

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個人情報保護の法制化が進んではいるが、個人の不安感は強い。アメリカのIdentity Theft Resource Center(ITRC)は個人情報の盗難に関する被害を扱うNPOである。その報告によると、2017年に扱った1632件のうち、24%がメディカル/ヘルスケアに関連するものだ。

こういう状況もあり、デジタルヘルスのデータベース構築には、試行錯誤が続き、時間がかかりそうだ。

現行医療体制ステークホルダーとの齟齬

デジタルヘルスがアメリカで普及に苦労する別の理由として、現在の医療体制には受け入れられていないことがある。医療システムが完成されており、新しい次元であるデジタルヘルスに受け入れがたいところが一部にあるのだ。そこには3つの要因がある。

1つめは医師である。デジタルヘルスのワークショップで会った医師によると、とくに遠隔診療について、「私たちが一生懸命頑張って医学部に入って勉強して医師になったのは、ビデオの前で診るためじゃない」と考える医師が多いそうだ。万が一、誤診が起きた場合、機械の責任にするのか、自分の責任なのか、誰がその賠償金を支払うのか、明確でないためハードルが高いようである。

2つめは患者である。デジタルデバイド(情報格差)の問題がある。ボストンのカンファレンスで開催されたピッチや企業展示会に、よいアイデアが多く、すばらしい(世界的に普及するポテンシャルがありそうな)商品も多い。しかし、新しい機械を買って、新たなアプリをインストールしないといけないし、個人情報をもう1度入力しなければならない。

出展していた企業の様子(筆者撮影)

若者だったらまだ受け入れられるかもしれないが、(費用も時間も削減できる)デジタルヘルスの受益者であるはずの高齢者やITリテラシーが低い貧困層にとってはハードルが高い。

アメリカでは「患者をデジタルヘルスに参加させるコツは患者が何もせずに利用できるようにすることだ」と主張する人がいる。ユーザーフレンドリーなデジタルヘルスへの進化が必要だろう。

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