「根拠なき株価上昇」を正当化するヤバイ市場 企業収益も世界情勢も暗くなるばかりだ

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もしこうして米中間で一切歩み寄りがない、という事態になれば、国益より自身の都合を優先するトランプ大統領としては、いつまで経っても成果を吹聴できないことになる。それでは自分の手柄を誇示できないし、一方では中国による農産品購入減で、アメリカの農家の間には、徐々にトランプ政権に対する不満が募り始めていた。

そうしたトランプ大統領の足元をみた中国側の提案でもあったわけだが、その中国からの「エサ」に大統領が釣り上げられた、という事態ではないだろうか。政権内の強硬派が、そうした大統領の行動にあきれているのか、それともあきらめているのかは、知らないが。

なお、そうした米政権内の動きは別として、実際にこの部分合意が、株式市場が大いに好感するほど素晴らしいものかと言えば、すでに述べたように、中国は本来重要な部分で大きな譲歩を行なったわけではない。実は部分合意とは具体的に何と何が合意されたのかは、まだよくわからない。両国間で、詳細はこれから詰めて書面化すると報じられている。

一部の報道では、中国による農産品の購入増の他に、知的財産権や技術移転強要など、構造問題についても何らかの合意がなされたかのような伝えられ方がしている。だが本当の意味で構造問題についての合意がなされたかについては、はなはだ疑問だと考えている。

これは筆者の推察に過ぎないが、以前中国側が、「中国内で活動しているアメリカの企業が、知的財産権の侵害や先端技術の移転強要があったと考える場合に、それを提訴できる外国企業専用の裁判所を作る」と提案していたフシがあった。

そんな裁判所を設置しても、どうせ中国政府の肝いりだろうから、機能するかどうかは怪しい。この筆者の推察が正しければ、やはり中国が形だけの提案でトランプ大統領を釣り上げることに成功した、と解釈すべきだろう。

こうした中国からの「エサ」に対して、アメリカ側が譲歩したのは、2500億ドル分の対中輸入について、10月15日から追加関税率を25%から30%に引き上げる予定であったことを、先送りした(英語では「delay」=「延期」と報じられており、「撤回」とは伝えられていない)ことだ。

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