30円の値上げが立ち食いそばの死活問題なワケ ゆで太郎・富士そば社長対談(上)

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池田:あとトピックスとして大きいのは、最低賃金の引き上げ。最低賃金より高い時給でパートの募集をしていたんで気にしていなかったんですが、気づいたらその差がすごく縮まっていて……。それで業界の人に聞いてみたら、最低賃金で募集しているというのが実は増えているんです。

:うちも足元まで迫っている感じです。

池田:当然、最低賃金が30円上がれば、時給も30円上げます。ここのところ急に上がってきたので、気にしていなければいけないですね。

60歳を過ぎても働いている人が多い

「ゆで太郎」も「富士そば」も店舗で働く従業員の多くはパート。どの業界でも人手不足と言われているが、立ち食いそば業界もまた、人手に悩んでいるようだ。

:都心はとくに募集してもなかなか来てもらえませんね。

都心での従業員確保が難しいと話す丹社長(撮影:梅谷秀司)

池田:時給の高い仕事が、ほかにいっぱいありますからね。あとはやっぱり飲食業って人気ない。大変できつい仕事というイメージがあるんでしょうが、きつくない仕事なんて、基本ないと思うんですけどね。ただ、われわれのところは年配の方が多いので。

:60歳を過ぎても働いている方が、まだまだ多い。

池田:うちにも70歳の方が2名、80歳の方が1名、働いています。80歳のおばちゃんは、気合が入っています。これまで飲食の仕事をやったことがないんですよ。なんで応募したのか聞いたら、「家から近いから」って。びっくりしました。それで週に4日働いて、残りの3日はヨガに行っているんです。

富士そばさんもそうですけど、1日8時間週5日などフルタイムでパートさんを採用できる強みもあります。仕込み型なので。それだけ働いてもらえれば、例えば手取り20万とか約束してあげられる。たくさん働きたいという人にはいいかもしれない。

一方、社員の平均年齢はわりと若くて38歳ぐらい。新卒を毎年採っているので。今年、うれしかったのは、初めて学生アルバイトから3人、社員に上がったことです。

同じ「立ち食いそば」でも考え方や戦略は異なると話す両社長(撮影:梅谷秀司)

:それはうれしいですね。うちは、新卒は採らないので、社員である店長はほぼパートの従業員から上がってきます。平均年齢は、40歳は超えています。もちろん、店の従業員は高齢の方が多いので、それを入れるとグンと高くなりますけど。

池田:面白いのが今年、町のそば屋の息子が入社してきたんです。実家は継がないのかって聞いたら、「あんなもの継げません」って。それで父親はどう言っているのか聞いたら、「いいね」って言っているって。

:昔は町のそば屋もいい商売だったんですけどね。だから変わらずにやってきてしまった。

池田:ある意味で、いい時代だったんだと思いますよ。

本橋 隆司 フリー編集者・ライター

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もとはし たかし / Takashi Motohashi

出版社勤務を経て、フリーの編集者・ライターとして雑誌やWEBサイトなどで活躍中。立ち食い蕎麦好きが高じて、2013年に『立ち食いそば図鑑 東京編』、2014年に『立ち食いそば図鑑 ディープ東京編』を制作して出版。蕎麦愛好者コミュニティ「東京ソバット団」の団長も務める。

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