路線バスが相次ぎ廃止、地方で急増する「交通難民」《特集・自治体荒廃》
「高齢者にはバスは欠かせない存在。それなのにここ数年は路線廃止で不便になるばかりだ」
鹿児島市中心部から車とフェリーで2時間、大隅半島の最南端に位置する南大隅町。農協の倉庫を改装したバスの待合所で、同町に住む山下一秀さん(81)はつぶやいた。
かつてこの地域には本州最南端の地として20台、30台もの観光バスが連なったという。しかし今は、高齢者がまばらに乗った路線バスが一日に数本通るのみだ。人口970人余り。多くの若者は、鹿児島市内などに仕事を求めて移り住む。
2006年に大隅半島で路線展開する唯一のバス事業者、いわさきコーポレーションが大隅半島の路線を一気に4割も削減。もともと一日数本のみの路線バスがさらに減少した。そのため、南大隅町は補助金を出し、コミュニティバスの運行を開始した。
コミュニティバスの料金は片道100円。交通難が深刻な町南部を中心に3方向へ週2回運行する。スーパーマーケットや診療所がある佐多まで、多くの高齢者の移動手段となっている。
コミュニティバスも廃止 不便さ増す過疎地の生活
しかし、地域の交通インフラを支える代替手段として登場したコミュニティバスも、利用者の伸び悩みと財政難で危機に立つ。今年4月からは3路線中、島泊~佐多間の廃止を決定。同区間の交通手段は、わずかに残る片道250円の路線バスのみとなる。山下さんは、「財政難で老人パスはない。年金暮らしの高齢者にとって路線バスは大きな負担」とつぶやいた。
佐多から車で約15分の集落、島泊に住む平川アサエさん(87)も、このコミュニティバスの廃止の影響を受ける一人だ。やはり子どもたちは鹿児島市内に住み、現在は一人暮らし。島泊にも小さな雑貨店はあるが、手に入るのは調味料くらいだ。通院がてら、佐多のスーパーでパンや生鮮食品などを買うのが日課だ。「足腰が痛く、バスなしでは通院も買い物もできない。このバスができたときは本当に助かった」。しかし、喜びもつかの間の廃止決定。「このバスがなくなったら、今年はあと何回町に出てこられるだろうか」と不安げだ。
もともと交通の便が悪く、隣家の車への便乗、家族の通勤時に同乗する、など住民同士の助け合いで公共交通の穴を埋めてきた南大隅町。しかし、現在では65歳以上の高齢者の割合が4割を超えた。特に町南部は過疎化が深刻。高齢者の割合が半分以上という「限界集落」だ。
さらにこの地区の独居比率は3割を超える。住民同士の助け合いが機能しなくなったうえに、通院や買い物に不可欠な路線バスの廃止、減便。コミュニティバスを利用する高齢者が多い島泊から佐多までは片道約10キロメートル。しかし便数が少ないため、その往復に3時間半以上かかってしまう。
南大隅町のバス運転手は「確かにこの地域では、朝晩は混んでも昼間は利用者が少ない。だからといって、さらに路線を減らしていけば、人口は流出する一方だ」と危惧する。