熱中症を軽視する人はこの危険をわかってない 対処を間違えると健康な若者でも命を落とす

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労作性熱中症は地球温暖化が進む昨今、世界中で増加傾向だ。2014年、アメリカのノースカロライナ大学の医師たちが高校フットボール選手で、2018年アメリカ軍の研究者たちが軍人の中で熱中症と診断される人が増えたと報告している。夏の高校野球でも、毎年のように熱中症で倒れる選手がいる。

興味深いことは患者の多くが軽症で、後遺症なく治癒することだ。前述のアメリカの研究では致命率は5%以下だ。

これは社会における熱中症の認識が深まったためだろう。医師の認知度も高まり、以前なら見落とされていた軽症の熱中症が正確に診断されるようになった。また、一般市民の認知度が高まり、体調に異変が生じると、途中で仕事や競技を止めるため、重症化しなくなった。25年前に私が担当した患者さんも、今なら助かっていたかもしれない。

昨今、熱中症で問題となるのは高齢者だ。体力がなく、基礎疾患を抱えることが多い。軽度の熱中症でも命に関わることがある。また、認知機能が低下し、熱中症に気づかない、あるいは気づいても1人で外部に助けを呼べないこともある。さらに厄介なのは、高齢者は室内で安静にしていても熱中症を起こすことだ。独居の場合、誰にも気づかれず、孤独死することもある。このようなタイプの熱中症を「古典的熱中症」と呼ぶ。

梅雨明けに最も注意すべき理由

近年、地球温暖化が進み、日本の夏は「灼熱地獄」となった。高層ビルが林立する都市部ではヒートアイランド現象も起こる。高齢者にとって、梅雨明けの急に暑くなるこれからが最も危険な時期だ。

なぜ、真夏よりも、この時期が危険なのだろうか。それは、体が暑さに馴れていないためだ。徐々に体を暑さに順応することを暑熱順化と呼ぶが、暑熱順化の効率には湿度が影響する。

わが国の特徴は、6月に梅雨の影響で湿度が急上昇し、7月にピークを迎えることだ。この時期の東京の平均湿度は約80%となる。梅雨明けに急に気温が上がったときには、体もなれておらず、湿度も高い。この結果、十分に汗をかけず、熱中症になりやすくなる。

どうすれば、熱中症から身を守ることができるだろう。注意すべき、いくつかのポイントがある。

まずは、こまめに水分を補充することだ。この点については、多くの人が認識するようになっている。外来診療をしていると、「OS-1」などの経口補水液を携行している高齢者が増えた。発熱、倦怠感を主訴に受診しているのだが、来院前から熱中症の可能性を疑っているようだ。同居する配偶者や子どもに勧められた人が多い印象がある。これは医学的に極めて適切な対応だ。

「OS-1」は、2001年に大塚製薬工場が発売した製品で、水分だけでなく、汗で失った電解質も補充できる。所ジョージ氏のCMで有名だ。彼は、2010年に家庭菜園の手入れをしている最中に熱中症で倒れた。

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