日立「英国新幹線」、祭りの後に待ち受ける試練 イベントは大盛況、だが次に造る車両がない?

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鉄道の街・笠戸の勢いは衰えることがない。しかし、海の向こう、イギリスのニュートンエイクリフ工場では、ある問題を抱えている。

現在、同工場はIEP向けクラス800やスコットランド向け近郊車両の製造で大忙しだ。毎月の生産量は約40両。しかし近郊車両の製造はもうじき終わり、IEP向けも来年には生産が完了する。小ロットの案件がいくつかあるとはいえ、大型案件2つがなくなることで、工場は一気に手持ち無沙汰になる。

日立が受注を狙っているのが、ロンドンとバーミンガムを結ぶ高速新線「HS2」。IEPに匹敵する大型案件だ。日立はボンバルディアと組んで6月5日に応札したが、シーメンス、アルストムなどのライバルも応札している。日立が確実に受注できるとは限らない。

「HS2」受注が今後の鍵

ニュートンエイクリフ工場で造るものがなくなったらどうするのか。こんな問いに対して、日立のアリステア・ドーマー副社長は、「日本、イタリア、イギリスの各工場をフレキシブルに活用することで、各工場の作業量を最適化したい」という。具体的に言えば、欧州大陸向けの車両をイギリスで製造する可能性もあるということだ。

ニュートンエイクリフ工場で製造中の「クラス800」(記者撮影)

以前、ニュートンエイクリフ工場が手一杯だったときにイタリアの工場でイギリス向け車両を製造したこともあるので、こうしたアイデアは十分ありうる。ニュートンエイクリフ工場で造るものがないので従業員をリストラするという最悪の事態は考えなくてもよさそうだ。

しかし、イギリスのEU脱退が取り沙汰される今、こうした作業の分散化が本当に最適なものになるかどうかは不透明だ。イギリス向けの案件を製造することがニュートンエイクリフ工場にとってベストであることは言うまでもない。

その意味では、HS2の受注は日立にとって今まで以上に重要な意味を持つ。HS2が受注できれば量産先行車は笠戸で製造されるはずだ。そうすると、HS2が道路を走る姿を見ることができるかもしれない。笠戸の人たちも、イギリスからの朗報を首を長くして待っているに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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