日本人が「他人に家事を任せられない」歴史背景 世界から学ぶ「家事外注」のこれから

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中野:一方で、実際にシンガポールにいて住み込みメイドとして働きに来ているフィリピン人の女性や雇用主と話すと、例えば20代前半の独身でシンガポールでの生活をそれなりに楽しみながら、お金をためて帰ってから家族形成しようとしているような方もいます。

シンガポールや香港のホワイトカラー層が雇わないと言い出したら、自国でもっと条件の悪い仕事につかないといけないかもしれない。住み込みメイドの仕組み自体がなくなるべきだという方向性よりは、頻繁に里帰りができるようにするべきだとか、家族を同伴できるようにすべきという議論になっている?

筒井:大元のところで所得格差に否定的である以上、諸手を挙げて賛成はできないということですね。そのことと、いろいろな工夫とかやり方を提案して問題を軽減するということとは両立するのでは。白か黒かで割り切れる話ではないと思います。

家事外注が日本で広まらない理由

中野:メイド方式は北米では一般的でしょうか。

筒井:住み込みは一部のアッパーミドルだけで、全体から見たら非常に少ないでしょう。ただ、統計があまりないのですが、広い意味でケアワークを外注している人は多いでしょう。かつては女中さんという形で日本にもありましたが、現代的に使いはじめたのが北米で、そこから東アジア地域でみられるようになったと考えられます。ただシンガポールや香港も出生率が低く、出生率向上という意味では成功しているとも言えないですよね。

中野:そこは調査・取材しないといけないと思っているところです。日本でも外国人労働者の受け入れが広がり、家事労働者や介護の担い手も外国人に門戸を開放しつつありますが、日本で家事を外注する動きは広まっていくでしょうか。

筒井:とくに都心では共働きが多くなっているので、ニーズは高まっているのではないかと思います。ただ、日本でシンガポールや香港のように住み込みが広まらなかったのはなぜかという話で、家の敷地の中に他人が入ってくることに警戒感があるのではないかと社会学分野では言われることがあります。

日本はいったん専業主婦社会としてプライベートな空間として「家」ができあがってしまったので、自営業などが最近まで多く残っていた台湾などに比べると、家に他人が入ってくることに対してハードルが高い可能性がある。それがあるとしたら、よほど工夫をしないと、増えてはいかないでしょう。

中野:確かに私の取材でも「他人を家に入れること」への心理的障壁が高い様子がうかがえました。日本では専業主婦化が進み、それによって安定した時期があってから脱主婦化に向かったのに対して、他の東アジア諸国は近代化がより圧縮されて進み、伝統社会で家事労働者を雇っていた記憶がまだ残るうちに脱主婦化が進み一気に外国人家事労働者の受け入れが進んだという話ですね。「圧縮化された近代」と呼ばれるような、近代化のプロセスとスピードがここにも影響しているのは面白いです。

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