ジリ貧の「地銀」はどうすれば浮上できるのか アメリカの証券会社の手法にヒントが

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あるいは、手数料増強のための投信販売などは、現在、存在感を高めつつあるIFA(独立系のファイナンシャル・アドバイザー)との提携に態勢を変えることもありうる。専門的な商品の提供はその分野のプロフェッショナルの力を導入して、銀行員は顧客の悩みや要望を丹念に聞き取るという顧客接点のプロフェッショナルになればよい。地方銀行には、本来、その条件が備わっている。それは、地域における絶大な信用力である。

アメリカの証券会社にミズーリ州のセントルイスに本社を構えるエドワード・ジョーンズがある。大手証券会社がニューヨークのウォールストリートにあるのとはかなり異なっている。いわば、地方証券の1つであるが、リテール(個人営業)分野の存在感は絶大だ。世界で最も信用力がある顧客満足度調査会社、J.D.パワー社が行っている投資フルサービス業の全米調査では、つねにトップランクにある。

アドバイザーは地域の「名士」

エドワード・ジョーンズの特徴はその店舗戦略にある。同社は2016年時点で全米に1万4259店舗という巨大なネットワークを構築しているが、特徴はその数だけではない。基本的に、店舗はアドバイザー1人を配置しているだけである。しかも、店舗進出に当たってアドバイザーは現地で採用しており、その際、積極的に採用しているのは現地の小学校の校長経験者など、いわゆるその地域の名士である。

そういう人物は、その地域で信頼されており、それがビジネスにも反映される。さらに言えば、名士たる人物は顧客無視のハードセールスは行わない。自分の名声に傷がつきかねないからだ。

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また、彼らに専門的知識が備わっていなくとも、十分にそれを補うだけの独特の仕組みを構築している。商品の説明や投資のあるべきやり方のアドバイスなどについては、商品を組成し運用している運用会社の専門家や投資の専門家を支店に派遣し、彼らにそれを担当させるようにしているのだ。

つまり、支店のアドバイザーは、支店の信頼性を高めることに徹しているのである。このビジネスモデルが正鵠(せいこく)を射ていることは、顧客満足度の高さが物語っている。エドワード・ジョーンズは証券会社なので、銀行とはビジネスが異なっていることは言うまでもない。しかし、同社のビジネスモデルのエッセンスは参考になるはずである。

とくに地方銀行は、エドワード・ジョーンズのビジネスモデルを定着化させる条件を備えていると言える。なぜか。地域ではいまだに絶大な信用力があるからである。ただし、目先の収益を追い続ける限り、信用力という貴重な経営資源を生かすことはできないかもしれない。

地方銀行には地域社会、地域経済を活性化させるだけの潜在的な能力があると信じている。自身の潜在能力、貴重な経営資源を軽視せず、それを一段と生かすような経営改革を断行すれば、地方銀行は躍動感にあふれた次の時代を迎えられる。しかし、いま、多くの地方銀行はその自身の価値に対する自信を失いかけているようにみえる。これはまことに残念な話と言わざるをえない。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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