痴漢加害者に四大卒妻子持ちが多いという現実 再発防止のために知っておきたい被害の実態

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痴漢という行為を何度も何度も反復することで、脳の中に条件反射の回路ができあがるんです。梅干しを見ると唾液が出ますよね。それと同様の回路です。

満員電車に乗ると、痴漢することを自分では止められないわけです。梅干しを見て唾液を出すなと言われて、皆さんできますか?難しいですよね。これが条件反射です。

だから彼らはやめたくてもやめられない。こうなると、ある特定の状況や条件下で衝動の制御ができなくなります。

また、認知のゆがみもあります。認知のゆがみというのは、その人が現実をどのように捉えているかということです。

彼らは自分の都合のいいようにゆがめて捉えています。問題行動を継続するために、本人にとって都合のいい認知の枠組みを自分の中で育んでいきます。

たとえば、代表的な認知の歪みとして、以下のようなものがあります。

• 露出の多い服を着ている女性は痴漢されたいと思っている。
• 最初は嫌がる女性が多いが、痴漢をされるうちに多くの女性は気持ち良くなってくるものだ。
• ちょっと触れるぐらいなら気付かれてもいないし、もっとひどいことをやっているやつはたくさんいる。
• こちらをちらちら見ている女性は、もしかしたら痴漢されたいと思っているのではないか。
• 女性は無意識のうちに痴漢されたいという願望を持っている。

こうした認知の歪みを修正し、できあがってしまっている思考パターンを修正することが治療なんです。

「生きがい」でもある痴漢行為

治療の中で、「痴漢をやめて失ったものは何ですか?」と聞くとことがあります。

あるとき、この質問に「生きがいです」と答えた人がいました。「私は、生きがいを失いました」と。そしてそれを聞いていた人たちもうなずいていました。

つまり、彼らにとってそれぐらいやめるのは難しいということです。

適切な治療をして痴漢をしない状況をつくることは可能です。我々のプログラムのなかで、いま最も長く継続している人で9年間痴漢していません。

繰り返しになりますが、1人の痴漢行為自体を止めないと、被害者は後を絶ちません。

だからこそ、加害者の再発防止プログラムは欠かせない。ある性犯罪者が満期出所すれば、そのまま社会に野放しにされてしまいます。

自分で再犯のリスクがあると感じても、刑務所から特定の病院につなぐことはできません。また地方の刑務所から我々のような専門治療に通おうとしても難しい。そうすると、場合によっては孤立化し、再犯する可能性が極めて高くなってしまうわけです。

これはとても大きな問題です。司法ともこれから少しずつ連携していこうという動きになってきていますが、まだまだです。

我々は治療と共に、少しでもそうした社会構造を変えていきたいと思っています。

リディラバジャーナルでは、痴漢問題に関する社会構造を明らかにしようと「痴漢大国ニッポン:『社会問題』として考える痴漢」を特集しました。特集内では「30年間、痴漢をやめられなかった」という元加害者にもインタビューし、痴漢問題の「構造化」を図っています。

※本特集では、痴漢の被害・加害に触れている箇所があり、フラッシュバックやPTSD(心理外傷後ストレス障害)を懸念される方は、十分に注意してください。

「リディラバジャーナル」編集部

「リディラバジャーナル」は社会問題の現場を訪れるスタディツアーを提供しているリディラバが2018年1月に立ち上げたウェブメディア。社会問題を見続けてきたリディラバの知見をもとに、問題の背景にある社会構造まで踏み込んだ、特集形式で記事を提供する有料メディアです。

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