新しい経済メディアでは記者の役割が変わる |

新しい経済メディアでは記者の役割が変わる

新しい経済メディアでは記者の役割が変わる

猪子寿之×梅田優祐 対談

國貞 文隆(ジャーナリスト)
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既存の経済メディアは本当に読者のニーズを満たしているのか。ネットの浸透により、読者が本当に欲する情報と経済メディアが提供する情報との間に乖離が生じているとチームラボ代表の猪子寿之氏は指摘する。読者のニーズを拾い上げるには、従来のような経済記者ではなく、専門家が独自の視点を持って面白いと思うニュースを選択すべきだというのだ。そのような新しい経済メディアの構築は可能なのか。NewsPicksはどこまでそのニーズを満たしているのか。猪子寿之氏と梅田優祐氏が語り合った。


猪子寿之
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表。1977年、徳島市生まれ。2001年東京大学工学部計数工学科卒業と同時にチームラボ創業。大学では確率・統計モデルを、大学院では自然言語処理とアートを研究。

単に選択されているのか
それとも、渇望されているのか

梅田 猪子さんは経済メディアの現状に対して、どのようなお考えをもっていますか。

猪子 過去の限られた情報を全員が享受して選択せざるを得ない状況から、ネットの浸透によって現在は、共有し得ないほど多くの情報が氾濫する世の中になりました。

このネットに氾濫する情報の中には、実は表面化していない人々の渇望が多く隠されています。例えば、マーケットシェアが7割のA社と3割のB社があるとしましょう。表面的には、A社の支持のほうが高いように見えます。ところがネットでの検索数はB社の方が多い場合がある。この現象にこそマーケットの水面下での変化を読み取るヒントが隠されているのです。いわば、世界中で検索されるキーワードや画像が何であり、その数字がどう伸びていっているのか。そうしたネットの数字を追うことで、潜在的な人々の渇望の兆候を見つけることができるのです。

これからのビジネスは、人々を実際の行動に駆り立てる本当の渇望のトレンドを捉えることがますます重要になってきています。しかし、その渇望を経済メディアなどのマスメディアはなかなか捉えられない。単に選択されているのか、それとも渇望されているのかには、大きな乖離があるのです。少数でも強い渇望に未来の経済のヒントがあると思うのです。

梅田 その意味で、猪子さんなら、今どんな新しい経済メディアをつくろうと思いますか。

猪子 今の経済メディアは、主に金融マーケットに参加している人たちのためのメディアに限定されていると思うんです。それはスポーツ新聞で競馬の予想特集が売れるのと同じ構造に見えます。その構造を否定する気はまったくありませんが、もし新たに経済メディアに参入するのであれば、そうした既存の競合相手が少ないところに参入したいですね。

仮に経済メディアではなく、アートや文化、もしくは、文化とも言えないような若者の流行りの現象のように一見経済とかけ離れているような分野であっても、実際には経済活動と結びついています。本来、経済活動とは、マーケットに参加してなくても、実社会で働いている多くの人たちにとっては切っても切り離せないものだからです。

僕のように金融マーケットに興味がない人間にとっては、日経平均だとか、円高、円安といった短期的で表面的なトレンドよりも、今起こっている現象が、実は今のそれぞれのビジネスを跳ねさせるヒントになると思うし、もっと長期的に見て、未来の経済活動にどう影響し、どのような変化を生んでいくのかといったことに興味があるのです。


梅田優祐
ユーザベース代表取締役。1981年、アメリカ合衆国ミシガン州生まれ。2004年に横浜国立大学経営学部を卒業後、コーポレイトディレクションUBS証券を経て、2008年にユーザベースを設立。

今起こっている現象に
「自分で使える」ヒントがある

梅田 今の経済メディアは、猪子さんのような視点を持つユーザーの要望に応えていないということですね。

猪子 例えば、ネット上で爆発的に流行っている新しい現象は経済メディアにほとんど出てこない。なぜなら、新しい現象はジャンルすら不明なので、統計数字やランキングといった表面的な数字に反映されないからです。しかし、その爆発的な現象を分析して抽象化すれば、ほかのビジネスにも応用できるかもしれません。つまり、ビジネスの飛躍の発見につながる情報があるのです。

ある程度、賢い人なら「自分の分野に応用できる」とわかるわけです。そういうビジネスのヒントは、現在の経済メディアにはあまり出てこないと思いますね。

多くの現象は、実は自分の経済活動のヒントになりうる。そういったヒントが集まった経済メディアがほしいと思います。もしかしたら、僕の考えはまったくユーザーに届かないかもしれませんが(笑)。

梅田 僕たちのメディアであるNewsPicksには猪子さんが指摘するような要素があると思います。既存のメディアは重要なニュースを編集長が決めますが、NewsPicksではユーザーが決めています。

猪子 僕はみんなが面白いと思うニュースと同時に、自分がやっているビジネスと紐付けができるぐらいまでに抽象化された解説記事がほしいんですね。

すでにビジネスとして流行っているものを解説するのではなく、一見ビジネスと関係のないレベルだけれど、ビジネスのヒントになるようなものです。世の中の至るところで面白い現象が起こっていますから、その現象をビジネス的側面からブレイクダウンしてほしいのです。


潜在的な現象を
誰が解説すればいいのか?

梅田 実はそれがポイントだと思っていて、NewsPicksでは専門家が実名でコメントを入れて、ニュースをピックアップしています。ユーザーは好みの専門家をフォローしていれば、その専門家を通して、新しいトレンドがわかるようになっています。

これまでのメディアはどちらかと言えば、一方的でした。その一方的だったものを、今度は経済活動をしている人たち自身がつくっていく。そういう経済メディアが求められていると思ったのです。それには、誰がコメントしているかが重要になってくる。例えば、猪子さんのようなITの専門家にとって面白いことだったら、それがニュースになるのです。

猪子 それは誰も注目していない現象でも、わかっている人から見れば、すごいものだという話ですね。僕もそれでいいと思うのですが、ただ、それだけでは必ずしも一般の人にとっては面白いものにならないのかもしれません。

コメントする人のタレント性に頼るだけでは、パイは限られると思うのです。なぜならユーザーにとって専門家のファンでなければ、面白くないからです。一見経済的には無関係だけど、世間の多くの人たちが非常に面白いと思う現象に対して、誰かが先んじてその本質的なことについて、経済活動にも応用できるように解説してくれれば、それだけで読む人のパイも拡がると思うのです。

梅田 その解説の役割を誰がすればいいのでしょうか。

猪子 それは難しいですね。だから、そんなメディアがないのかなあ(笑)。でも、専門家が専門家に話を聞きに行くというのは面白いかもしれませんね。プロ同士だと話も当然盛り上がりますから。


新しい経済メディアでは
記者の役割は変わる

梅田 もしかしたら解説をする人たちは記者の方々ではなく、業界の専門家だったりするほうがいいのかもしれませんね。

猪子 記者の役割は、これから変わっていくと思います。例えば、コーディネーターのような役割をするとか。僕は取材などで他分野の専門家と対談したりする機会が多いのですが、大抵の場合、相手のことを知らなかったりする。だから僕ではその相手を選べないわけです。だから、業界ごとに誰がどんな位置にいて何に詳しいのかをよく知っている記者や編集者の方々がコーディネートして提案してくれたほうがいい。

一方で、ネットではプロフェッショナルな記者の方々が書いた記事よりも、専門家の方々がインタビューした記事のほうが結果的に反響が良いケースが増えています。

でも、実際には専門家の方々はインタビューにはなかなか行ってくれない。ただ、もしそこに別の目的やモチベーションがあれば、行くかもしれない。なので、インタビューに行く専門家にお金以外のメリットがあるといい。昔風に言えば、雑誌の記事広告のようなものがいいのかもしれません。記事広告だから良くないという常識や思い込みがあるかもしれませんが、これからは記事広告の新しいモデルの方が未来があるのかもしれませんね。

梅田 記事広告も編集記事のようにコンテンツ自体をユーザーが楽しめるようなものになってきています。ある出版社では「オウンドメディア」として、実践されていますね。

猪子 そうであれば、専門家にとってその専門家の本業への間接的なメリットがあれば、インタビューに行くモチベーションができるわけでしょう。しかし、だからといって記者の価値が低下するのではなく、記者の方々にとっては客観的に多くの情報を知っているからこそ、コーディネートやキュレーションという新しい側面での価値が浮上し注目されてくると思いますね。

(撮影:今井康一)

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