成長戦略の岐路に立つエレクトロニクス業界《スタンダード&プアーズの業界展望》

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<家電メーカー>
日本メーカーにとって逆風が続く可能性

今回、日本の家電メーカーが相対的に大きな悪影響をうける可能性が高いとスタンダード&プアーズは考えている。高付加価値製品から低価格品への需要シフトが世界的に進んでいることが、景気減速を受けた消費マインドが冷え込むなかで高機能品を得意とする日本メーカーには逆風となっている。また、今回の事業環境の変調が急速な円高を伴っていることも、収益への大きな重しになるだろう。すでに外部環境の急激な変化を受け、各社の2009年3月期の業績見通しは期初見通しから大幅に下振れしており、特に日本の電機メーカーにとっては、今後、これまで以上に厳しい事業環境が続くリスクがあるとみている。当面、キャッシュフロー創出力の大幅な悪化が見込まれることから、各社の信用力に対する下方圧力は短期的に強まる方向にある。短期的な財務健全性の悪化の度合いに加えて、今後のキャッシュフローの回復見通しや設備投資の方針などを改めて検証を行う必要があると考えている。

成長戦略の見直し迫られる、、財務基盤も信用力判断の重要な要素

今後もデジタル製品市場では、開発負担の増加や製品サイクルの短命化、グローバルな競争激化が引き続き進むとみている。これに加え、今後数年間は、コモディティー化が加速度的に進んでいるボリュームゾーンが主要な成長領域になる可能性が高いことから、「強みをもつ高付加価値製品に戦略の重点を置く」というこれまでの日本のデジタル家電メーカーの成長戦略は、大きな方向転換を迫られると考えている。スタンダード&プアーズは、短期的な業績悪化圧力に加えて、中期的な市場地位や経営戦略の面でも信用力に対する不透明さが強まる状況と認識している。

「環境・エネルギー分野」など新たな成長領域の強化は各社共通の課題である。今後数年の戦略的投資や経営リソースの配分に対する経営判断は、将来の信用力を大きく左右する要因となるだろう。明確な成長戦略を描くことが非常に難しい現在の環境下で、各社の「マネジメントの経営方針」に対する格付け評価上の重要性は、従来以上に高まっている。

また「財務基盤の強さ」もこれまで以上に注目点になる。固定費削減や事業分野の見直しなど、来期以降の損益改善を目指し、短期的に思い切った構造改革を進めるためには、一定の財務基盤の強さが必要である。また、中長期的な成長戦略の実現に向け、必要な投資をタイムリーに行うためにも財務面での柔軟性・機動性が重要となろう。グローバルな金融マーケットが依然不安定な状況にあるなか、スタンダード&プアーズは、財務基盤の格差が、各社の当面の事業戦略の自由度を決定付ける一要因になりうると考えている。

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