成長戦略の岐路に立つエレクトロニクス業界《スタンダード&プアーズの業界展望》

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<総合電機メーカー>
短期的に財務耐久力が格付けを左右も

短期的に、総合電機各社は、今後1~2年予想される業績低迷の長期化に耐えられるだけの財務耐久力があるかが、大きなポイントになるとみている。特に、半導体、HDD、携帯電話などを中心に市場環境の悪化が昨年秋ごろから一段と加速しているため、こうした事業のウェイトが高い企業では、業績のさらなら下方修正の可能性が高いとみている。財務基盤の悪化が続いている東芝(BBB+/ネガティブ/A−2)については、主力の半導体における事業環境が極めて悪化し、デジタル家電なども販売不振が続いていることから、下方圧力がさらに強まるとみている。他社でも同様に、半導体やHDDなどに収益を大きく依存している大きい場合は、業績の落ち込みは大きくなる見通しである。半導体事業では、台湾や韓国、ドイツにみられるように、政府が経営支援を表明しており、国内メーカーを取り巻く競争環境は今後さらに厳しくなるとみている。それら以外の主力事業が全体の利益水準をどの程度カバーできるかを慎重に検証していく。HDD事業の売却交渉を進めているとの一部報道もある富士通(A−/安定的/--)については、仮に売却が進めば中期的な業績悪化リスクが削減されるため、ポジティブに評価できるとみている。

中期的には事業構造の転換が必至

中期的には、モノが売れない状況でも収益を上げられるビジネスへの転換、縮小する市場でも利益を確保できる構造転換を進められるかに注目している。そのためには、損益分岐点の一層の引き下げが必要となり、工場や設備、人件費などの固定費の削減を進められるかが重要なポイントとなるだろう。

こうしたなか、景気サイクルの影響を受ける半導体や個人消費の動向に大きく依存するHDD、デジタル家電、携帯電話のようなビジネスから、社会インフラ、サービス、メンテナンスなど相対的に安定的した利益を確保できるビジネスへの事業ポートフォリオの見直しが、格付け水準を維持していくうえでは不可避となるだろう。さらに、その中でも高い技術力や商品力を裏付けとした競争力を維持し、地道なコスト削減にも継続的に取り組めることが格付けの耐久力を増すうえで大きな要因となってくるだろう。数年前と比べて、各社とも事業構造の転換がある程度進み、財務面も改善している点は評価しているが、1)さらに踏み込んだ事業構造の転換を早急に実施できるか、2)事業環境に応じた設備投資計画の見直しなど財務方針も柔軟に変更できるかが--より重要になると考えている。

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