富士山の入山料「任意で1000円」は絶対安すぎる 日本の観光地では京都と並び「苦悩の双璧」

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その場所の価値に見合った対価を支払う、という気持ちを醸成しないと、日本が誇る資産は目減りするばかりです。観覧料を価値に見合った価格に設定することによって市場原理が働き、その場所をきちんと評価し、大事にする客が増えて、どうでもいい客は減ります。それによって、観光名所はレベルアップができるのです。

日本の行政の弱い点は、ヨセミテなどのような決断が主体的にできないところです。そのときに使われる典型的な言い訳は「市民からそんな金額は取れません」、あるいは「地元の観光業者の不利益になります」といったものです。

そのようなときには「例外の枠」を設ければいいのです。例えば市民から料金を取れないということであれば、地元の人には無料のパスを発行して、行き来自由にすればいい。

学生には専用の枠を設けて、抽選制にすればいい。

富士山にしても、竹田城跡にしても、一律に入山料や観覧料を徴収するのではなく、融通が利く制度を設計すればいい。柔軟な対策に頭を使うことこそ、著者が『観光亡国論』で、その重要性を繰り返し説いている「適切な」マネジメントです。

お役所的な平等主義を超えて

「マネジメント」と「コントロール」とは、管理と制限のやみくもな強化のことではありません。それらをいかに「適切」に設計し、実行するかが肝要ということです。

日本でなかなか「適切」にコントロールできないのは、「みんなに見せてあげましょう」というお役所的な平等主義の影響もあるかもしれません。

『観光亡国論』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

趣旨は博愛的ですが、あるキャパシティーを超えたら、やはり対応策は必要になってきます。「観光過剰」が社会課題となっている現在、「みんな平等に」ということは「みんな平等にひどい目に遭う」ことになりかねません。

もちろん、あまり高く設定しすぎるのはよくありません。それこそ「不平等」で、富裕層しか名所に行けなくなってしまっては困ります。

そこでもう1つの方法として「予約制度」の導入が考えられます。予約制度では、「すべての人たちが見られる」という機会は減ります。見ることができない人が出てしまうことは残念ではありますが、別の視点に立てば、それは「本当に見たい人が、ゆっくり見学できるようになる」ということです。

予約制は「早い者勝ち」となるので、本当に行きたい人は、見に行くための努力が必要になります。これにより、中途半端に「ちょっと行ってみようか」という人たちは行けなくなりますし、土日祝日など一定の日時に殺到することも避けられます。

これは観光のオーバーキャパシティー問題を緩和する「市場原理」です。そして日本が観光で「亡国」せず、しっかりと「立国」するために欠かせない、重要な視点であると私は考えています。

アレックス・カー 東洋文化研究者

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Alex Arthur Kerr

1952年、アメリカ生まれ。NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長。イェール大学日本学部卒、オックスフォード大学にて中国学学士号、修士号取得。1964年、父の赴任に伴い初来日。1972年に慶應義塾大学へ留学し、1973年に徳島県祖谷(いや)で約300年前の茅葺き屋根の古民家を購入。「篪庵」と名付ける。1977年から京都府亀岡市に居を構え、1990年代半ばからバンコクと京都を拠点に、講演、地域再生コンサル、執筆活動を行う。著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、1994年新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社)など。

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清野 由美 ジャーナリスト

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きよの ゆみ / Yumi Kiyono

東京女子大学卒、慶應義塾大学大学院修了。ケンブリッジ大学客員研究員。出版社勤務を経て、1992年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、ビジネス、ライフスタイルを取材する一方、時代の先端を行く各界の人物記事を執筆。著書に『住む場所を選べば、生き方が変わる』(講談社)、 『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO 』(いずれも隈研吾氏との共著、集英社新書)など。

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