富士山の入山料「任意で1000円」は絶対安すぎる 日本の観光地では京都と並び「苦悩の双璧」

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入山料は5合目以上に登る人に対して、任意で1人1000円を求めています。使い道は「環境トイレの新設・改修、救護所の拡充、5合目インフォメーションセンターの設置運営、安全誘導員の配置、富士山レンジャーの増員配置など」となっています。

入山料の導入以降の登山者は27万7000人(2014年)、23万人(2015年)、24万6000人(2016年)、28万5000人(2017年)、20万8000人(2018年)。各自治体のホームページなどでの発表によると、入山料の「協力率」は導入以来40%から60%台で推移しており、近年の入山料収入額を見ると、山梨県側で約9700万円(2017年)、約8800万円(2018年)、静岡県側で約5200万円(2017年)、約5700万円(2018年)となっています。

つまり現状では何割かの人たちが入山料を払わないで富士山に登っており、両県の入山料収入も1億円以下にとどまっています。もちろん、ないよりもあったほうがマシですが、この金額でできる対策は、どうしても対症療法的なものに限られてしまいます。

一方で登山道や山小屋の混雑は変わらず、それによって増す危険もそのままです。5合目まで車でアクセスできるため、そこから町歩きと同じ軽装で山に登り、途中で救援が必要になる人もむしろ増えているといいます。また、外国人登山者には入山料の徴収そのものがあまり知られていないため、自治体が協力金について説明した外国語のパンフレットなどを用意するなどして周知を図らねばならない状況です。

富士山の入山料はいくらが適切か

富士山のオーバーキャパシティーは頭の痛い問題ですが、アムステルダムやバルセロナと違って、ここには抜本的な解決の余地があります。それは入山料の「義務化」と引き上げです。

入山料の導入が議論されたときは、それだけで「登山の自由を侵すのか」「山はみんなのものだ」という声が上がりました。また、観光客相手の店を営む業者からは「売り上げが減る」といった不満も出ました。そのような声があると、行政や関係者は途端に及び腰になってしまいます。

そこで「任意」という中途半端な設定に落ち着いたわけですが、「任意」とは役所が責任を取りたくないための方法にすぎません。

富士山は危機にさらされています。その現状と海外の観光地の動向をきちんと認識すれば、入山料の義務化を訴えるのは決しておかしいことではありません。

そもそも世界の基準からいえば、1000円という入山料も安すぎます。

京都大学農学部の栗山浩一教授らが、富士山の入山者のデータを基に入山料の効果を分析した研究があります。それによれば入山料が1000円の場合、その抑制効果はたったのマイナス4%しかありませんでした。試算では、マイナス30%の効果を生むには、入山料を7000円にまで引き上げることが必要だそうです。

また、栗山先生は富士山の訪問価値も学術的に算出されていますが、そこでは1人当たり2万7053円という金額がはじき出されています。

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