30~40代の「孤独死」壮絶な後始末に見えた現実 今の日本では誰に起こってもおかしくない

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そのため、塩田氏は、頭に付けていたLEDのヘッドライトの光を頼りに部屋に入らざるをえなかった。

部屋の中は、ツーンとした死臭が充満し、大量のハエが、飛び回っている。殺虫剤を吹きつけて、歩みを進めると、奥にはベッドがあり、黒い体液の人型がくっきりと浮き出ていた。男性はベッドでうつ伏せになって突然死したのだった。

玄関の下駄箱の上には、水槽があり、その中から甲羅らしきものが見えた。それは小さなミドリガメだった。よどんで酸っぱいような腐臭を放つ水槽に目を凝らすと、亀は水の中で必死に手足をバタつかせていた。

「こんな環境でも生きていたんだ」と塩田氏は思った。

居間には、小さなケージがあった。見るとその中で、白いウサギが息絶えてぺちゃんこになっていた。ケージの横には、ラビットフードの袋が横倒しになっていて、中を見ると空っぽだった。

孤独死した部屋の特殊清掃を作業している様子(写真:武蔵シンクタンク提供)

後でわかったことだが、男性が亡くなって、死後3カ月が経過。部屋の片隅には、男性が過去に趣味にしていたカラフルな高級ロードバイクが何台もほこりを被っていた。

棚の上にあったアルバムを見ると、20代の頃、男性はクラブチームに所属し、メンバーと一緒に満面の笑顔を浮かべていた。筋肉が隆々として、ガッチリとしたいわゆる体育会系で、生き生きとした表情で仲間と肩を並べていた。

その横には、当時付き合っていた女性だろうか、ボブヘアの可愛らしい女性とディズニーランドでピースしているツーショットの写真が並んでいる。

40代になって完全に引きこもるように

男性に変化が起こったのは30代の中頃だった。この頃から、サラ金の請求書と精神科の請求書が目立つようになる。男性はうつ病を患い、会社を欠勤しがちになり、サラ金で借金を始めたらしかった。

そして、ついに退職。貯金が底をつき、生活保護を受けることになったらしい。

かつてアウトドアが趣味だった男性は40代になると、仕事を辞めて完全に部屋に引きこもるようになった。そして、昼夜逆転の生活を送り始め、太陽の光を完全に遮断するようになったと塩田氏は推測する。最後は、亀とウサギと猫を伴侶として、生活していた。

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