30~40代の「孤独死」壮絶な後始末に見えた現実 今の日本では誰に起こってもおかしくない

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床には亡くなる寸前まで遊んでいたとみられるポータブルゲームと大量のゲームソフトが乱雑に転がり、枕元から、寸前まで服用していたと思われる抗うつ剤や睡眠薬が見つかった。

猫と亀がかろうじて命をつないでいた

塩田氏が猫を探していると、ユニットバスのほうで「カタン」という音がしたため、見ると突然、黒に白ブチの猫が飛び出し、足にすり寄ってきた。猫はやせこけていたが、緑色の目には力が宿っていた。

「ニャーニャー」猫は、か細い声で鳴き、塩田氏にまとわりつく。

すぐに抱きかかえて、キッチンにあったキャットフードと水を与えた。猫は、がむしゃらにフードに食らいついた。臭いに慣れてきて、周囲を見渡すと、状況がわかってきた。

どうやら猫は男性が亡くなった後、ミドリガメの水槽の腐った水を飲み、封が空いていたラビットフードを食べて、3カ月もその小さな命をつないでいたらしい。

塩田氏は、あばらの浮き出た猫の背中をそっとなでた。

「お前、よく生きていたな」

その温もりに、えも言われぬ感情が押し寄せ、胸が詰まった。

自分も、この猫のように、強く生きていきたい――。そう思った。

孤独死の現場では、後に遺されたペットが犠牲になっていることが少なくない。その多くは飢え、渇き、壮絶な苦しみの中で死んでいく。

どんな過酷な環境でも、最後まで生きようとする命の営みを目の当たりにして、塩田氏は心打たれずにはいられなかったという。

マンションで待ち構えていた中年の女性の部屋を訪ねて、猫と亀が生存していたことを伝えると、引き取りたいと言ってくれたので、渡すことにした。猫は女性の手に抱かれて、安心したかのように目を細めた。

今から猫と亀を動物病院に連れていき、健康診断をしてもらうという。塩田氏は費用の負担を申し出たが、「私が好きでやっていることだから」と頑として受け取ろうとはしなかった。

塩田氏は今も猫砂を女性に定期的に送り、支援を続けている。

この男性のように、現役世代で孤独死する人には、思いもよらぬ場面で、人生の歯車が狂い、挫折し、そのまま立ち上がれなくなった人が多い。中には、30代や40代という働き盛りで孤独死する人も少なくない。塩田氏は、現役世代の孤独死についてこう語る。

「僕が手がける案件では、高齢者よりも現役世代の孤独死が圧倒的に多いんです。そして、4人に3人は男性ですね。女性は人付き合いがうまいけど、男性は、一度つまずくと閉ざしてしまう。僕自身、孤独死で亡くなった人の気持ちは理解できるんです。

僕は、父親の虐待を受けて、施設で育った。自分の母親に本気で甘えたことがないし、つねに親族には遠慮していたから、人生でつまずいて自暴自棄になる人の気持ちはすごくよくわかる。パワハラに遭ったり、暴力的な身内がいたら委縮したり、引きこもったりしちゃうだろうなと思うんですよ」

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