第一三共に巨額特損、インド製薬会社の買収で大誤算

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第一三共に巨額特損、インド製薬会社の買収で大誤算

わずか半年で、買収会社の株価が66%も暴落、評価損は3595億円--。

年明け早々、巨額の特別損失を計上すると発表した第一三共。背景には、買収したばかりのインド製薬最大手ランバクシー・ラボラトリーズの株価下落がある。株式約64%を4883億円で取得したものの、7割近くも暴落したことで巨額の評価損が発生した。05年に三共と第一製薬が合併して以来、初の赤字転落となる。

ランバクシー買収後、第一三共の庄田隆社長は「先進国での新薬販売に頼るビジネスは時代遅れ。先進国と新興国、新薬と後発薬の両方で攻める」と語っていた。莫大な費用が必要となる新薬は当たれば大きいが、商品化できる確率は2万分の1といわれるほどリスクが高い。ランバクシー買収により、新興国と後発薬へビジネスを広げる「複眼経営」を描いた。

しかし9月に入り、思わぬ事態が襲いかかる。FDA(米国食品医薬品局)が、ランバクシーのインド2工場の品質管理体制を指摘し、対米輸出を禁止したのだ。売上高の3割を占める重要市場が一時的に剥落したことで、08年12月期の第3四半期は約67億円の最終赤字に転落。輸出再開の時期は決まっておらず、赤字は膨らんでいるもよう。12月末の株価は、買収価格の1株737ルピーから66%も下落し、252ルピーとなった。

業界内からは「もう少し待てば安く買収できたのに」と揶揄する声も聞かれる。しかし第一三共は「1株252ルピーでは創業家が手放さなかっただろう」と説明する。

現CEO(最高経営責任者)のシン氏一族が創業したランバクシーは、49カ国で事業展開する優良企業で“インドのトヨタ”とも評される。インド国内では「たかだか買収プレミアム31・4%で日本企業に身売りするのか」と非難の声が上がったほどだ。庄田社長は「われわれが考えるランバクシーの企業価値と現在の株価には乖離がある」と強調する。

第一三共にとって「複眼経営」が持続的な成長戦略であることに変わりはない。ランバクシーは現在、安全性を指摘された2工場の改善文書をFDAに提出し、回答を待っているところ。09年初から本格始動するはずだった両社の協働だが、まずは信頼回復が先となりそうだ。

(前野裕香 =週刊東洋経済)

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